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6月2日の日本の昔話

一人になった鬼の親分

一人になった鬼の親分

 むかしむかし、鬼神山(おにがみやま)という山に二匹の鬼の親分が住んでいて、それぞれに大勢(おおぜい)の子分(こぶん)をひきつれていました。
 親分どうしの仲がよく、これまでけんかをしたことがありません。
 ところがある日のこと、二匹の親分がいっしょに酒を飲んでいるとき、かたほうの親分が、
「おまえの子分たちより、わしの子分のほうがずっと元気がええ」
と、いいました。
「なにをいうか。そりゃこっちのいうことじゃ。わしんとこの子分たちのほうが、ずっと元気がええわ」
 もう一人の鬼の親分が、いい返しました。
「なんだと!」
「なんだとは、なんだ!」
 酒のいきおいも手伝って、二匹の鬼の親分が、同時に立ちあがりました。
 でも、よく考えてみたら、鬼どうしがけんかをしてよろこぶのは人間だけです。
 おたがいに仲よくしてきたからこそ、この山に人間を近づけることがなかったのです。
 そこで、かたほうの鬼の親分がいいました。
「けんかをすれば、どっちかが負けて殺されることになる。そんなことをするのはそんじゃ。けんかでなくて、なんぞ、力くらべをするものはないかの」
「なるほど、おまえさんのいうとおりかもしれん。そんなら、あのけわしい谷の上に、石の橋をかけるというのはどうじゃ」
「それはおもしろい。よし、日がくれたら仕事を始め、朝になるまでの間に石の橋をかけ、どっちの橋がよくできているか、わしとおまえで見てまわろう」
「わかった。もし、わしのほうが負けたら、おまえの弟分(おとうとぶん)になるとしよう。その反対に、わしのほうが勝ったら、おまえが弟分になる」
 二匹の鬼の親分は、さっそく子分たちのところへ行って、このことを話しました。
 さて、日がくれると同時に、どっちの鬼どもも、岩をけずったり、かついだりして、石の橋をつくりはじめました。
「しっかりとがんばれ。さもないとおまえたちは、あっちの親分の家来にされてしまうぞ」
 二匹の鬼の親分は、必死(ひっし)で子分たちを追いたてます。
 静かだった鬼神山は、まるで戦(いくさ)のような大さわぎです。
 ところが、かたほうの橋はどんどんできあがっていくのに、もういっぽうはなかなか仕事がはかどりません。
 やがて、東の空が白くなるころ、谷の上にひとつのみごとな橋ができあがりました。
 あとひとつの橋は、まだ半分というところです。
 橋を完成できなかったほうの、鬼の親分がいいました。
「どうやら、わしらの負けのようだ。しかたがない。今日からおまえが親分で、わしはおまえの弟分になろう」
 それからというもの、鬼神山の鬼の親分は一人になり、その下に大勢の子分をしたがえるようになったのです。

おしまい

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