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    福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 9月の江戸小話 > 大黒さまのちえ 
      9月23日の小話 
        
      大黒さまのちえ 
        家主の坊ちゃんが、空地で友だちとドロンコ遊びをしておりました。 
   この坊ちゃん、親の威光(いこう)もあって、長屋(ながや→むかしの集合住宅 →詳細)の子ども連中のがき大将です。 
   竹べらで土をほっておったひとりの子どもが、いきなり、 
  「あっ、かたいもんがあるぞ」 
  と、さけんだ。 
   すると、坊ちゃんが、命令するように、 
  「ほってみろ、ほってみろ」 
  「うん。・・・あっ、ありゃー。これは大黒(だいこく →詳細)さまじゃ」 
  「どれ、よこしな」 
   坊ちゃんがとりあげて、ドロをこすりおとすと、ちゃんと、米俵(こめだわら)を二つふまえた、大黒さまです。 
   父親に、にて、ちゃっかりした家主の子は、そのまま家ヘ持って帰って、父親に見せると、 
  「ほほう。これはえんぎがいい。あそこの空地は、わしのもの。つまり、この大黒さまも、わしのもんじゃ」 
  と、さっそく、きれいにあらって、床の間にかざりました。 
   さすが、しまり屋の家主さんも、福の神がまいこんだというので、長屋の連中を一軒のこらずよんで、祝いの酒もりをすることになりました。 
  「且那(だんな)さん、おめでとうで、ござんす」 
  「このたびは、まことに、めでたいことで」 
  「これからは、わしらの長屋を、大黒長屋とよびましょう」 
  と、店子(たなこ→家をかりている人のこと)連中にいわれて、家主さんも、 
  「それがよい、それがよい」 
  と、たいヘんなごきげん。 
   とても、にぎやかな酒もりになりました。 
   家主さんは、 
  「やれ、うたえ」 
  「それ、おどれ」 
  と、しきりに店子たちをせめたてます。 
   ところが、いくらせめられても、長屋の連中には、これといった芸はありません。 
   しかたがないので、そのころはやった「豊年(ほうさく)じゃ」の歌を歌い出しました。 
  ♪豊年じゃ、万作じゃ 
  ♪百でお米が、三斗じゃ 
  ♪豊年じゃ、万作じゃ 
  ♪百でお米が、三斗じゃ 
   みなみな声をそろえて、この歌ばかりうたっておる。 
   あんまり、同じ歌ばかりうたうもんで、床の間の大黒さまが、たいくつしたんじゃろう、大きなあくびをした。 
   お酒がまわると、おどりだすものもあって、手や足をふりながら、 
  ♪豊年じゃ、万作じゃ 
  ♪百でお米が、三斗五升 
  と、やりはじめた。 
   手拍子をとって、力をいれてうたう。 
   うたううちに、手拍子は、いっそうにぎやかになって、 
  ♪豊年じゃ、万作じゃ 
  ♪百でお米が、四斗じゃ 
  ♪あいやお米が、四斗五升 
  ♪どっこい五斗じゃ、五斗五升 
  ♪安いぞ安いぞ 
  ♪安いがええぞい 
   それをきいた大黒さまは、 
   二俵のお米をかついで、床の間からおりて、外へ出ようとするので、 
  「もし、もし。大黒さま」 
   家主はびっくりして、大黒さまをつかまえると、 
  「もし、大黒さま。なにか、お心にさわりましたか」 
   すると、大黒さまは気ぜわしそうにいいました。 
  「これ以上、値段がさがらぬうちに、わしのこの二俵を売りにいかにゃ」 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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