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    福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 9月の江戸小話 > 十五夜の月は 
      9月15日の小話 
        
      十五夜の月は 
        むかし、むかし。 
   山寺のおしょうさんが、こぞうさんをよんだ。 
  「これ、珍念(ちんねん)や」 
  「はい」 
  「今日は、庄屋(しょうや→村長)さまの家でよりあいがあるで、おまえをおともにつれていくぞ」 
  「はーい」 
  「それでじゃ。お昼食には、このもちを持っていこう」 
  「仏さまにおそなえした、やわらかい、丸い大きなもちですね」 
  「さよう。ところで、わしは住職(じゅうしょく)。人さまの上にたつ身じゃ。おおぜいの前で、『お昼食どきじゃ。もちを出せ』とは、いいにくい」 
  「はい。これは、仏さまのおもち」 
  「まあ、だまっておれ。それでな、わしが、お昼食になったら『十五夜の月は』と、おまえにいうから、そのとき、そっと、わしにもちをわたすのじゃ」 
  「はい」 
  「わかったな」 
  「はい。おしょうさまが、『十五夜の月は』と、いうたら、このもちを出すんですね」 
  「さよう、さよう」 
   おしょうさんは、 
  (われながら、風流(ふうりゅう→うつくしく、品がある)な思いつきじゃ。) 
  と、ほくほくしながら、珍念にもちを持たせて、よりあいに出かけていったのです。 
   道みち、珍念は、おしょうさんのあとからついていったが、どうも、ふところのもちが気になってしょうがない。 
  (いくらおしょうさんが、けちんぼうでも、このもちの半分は、わけてくださるじゃろう。いや、半分の半分かな。いや、ほんの一口かな。・・・いや、ぜんぜんくれないかも) 
   そんなことをおもうと、いっそう、ふところが気になってきます。 
   そのうち、珍念は、ときどき、ふところに手を入れて、何かをはじめました。 
   さて、庄屋さまの家につくと、もう村のしゅうが、おおぜい集まっておった。 
   いろいろと、そうだんごとをしているうちに、お昼食どきになった。 
   おしょうさんは、みなの顔をぐるっと見まわしてから、 
  「珍念、十五夜の月は」 
  と、いいました。 
   すると珍念は、ふところがら取り出したもちを、ぐいと、おしょうさんの前につきだして、 
  「雲にかくれて、ここに三日月」 
  と、いいました。 
   つきだされたもちは、おおかた、珍念のおなかにはいってしまい、三日月ほどになっていました。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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