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    福娘童話集 > きょうの江戸小話 > 9月の江戸小話 > 拾い屋 
      9月18日の小話 
        
      拾い屋 
        あるところに、貧乏長屋(びんぼうながや→家賃の安い住宅 →詳細)がありました。 
   その長屋に、あるとき茂作(もさく)という男がこしてきました。 
   ところがこの男、いったい何をしてくらしているのやら、毎朝早くでかけては、日のくれに帰ってきますが、商売道具ひとつ持って行きません。 
   ふしぎでならない家主(やぬし→大家)の親父が、あるとき聞いてみました。 
  「おらの商売か? おらの商売は、拾い屋だ」 
  「拾い屋? はて、それはどういうことだ」 
  「なあに、毎日町ん中歩いて回れば、何かひとつは拾うて帰れるもんだ、おら、それでくらしてるんだ」 
  「・・・・・・?」 
   親父はどうにも合点がいかない様子。 
  (ようし、それならひとつ) 
  と、親父は次の朝早く、茂作のあとをそっとつけていきました。 
   そんなこととはつゆ知らず、茂作は通りをまっすぐ歩いていきます。 
   町の中ほどをすぎても相変わらず、てくてく歩いていくばかり。 
   やがて神社(じんじゃ)の境内(けいだい)を通り、となりの町までやって来ましたが、何一つ拾うようすはありません。 
   こんなちょうしで町という町を全部歩き回るうちに、夕方になりました。 
   茂作もあきらめたか、やっと家にもどるようす、おかげで親父もくたびれ果ててもどってきましたが、ハッと気がつくと、どうやらふところの銭二百をおとしていました。 
  「あいつのせいで、ろくなことはねえ」 
  と、ひとり言をいっていると、そこヘ茂作が帰ってきました。 
  (腹は立てども文句をいうわけにはいかんわい) 
   親父はしらばっくれて、いいました。 
  「今日はええ日よりで人もおおかったろうし、さぞええ物を拾ったろう」 
  「それが親父どん、今日はいつになく不景気じゃった。けれども、帰りがけにそこの路地(ろじ→せまい道)で銭二百を拾うたんで、まあ、一日歩いたかいはありました」 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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