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9月12日の日本民話
地中で三十三年
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今から二百年ほどむかし、浅間山(あさまやま)のふもとに住む若いお百姓が、畑のわきに井戸を掘り始めました。
ところがいくら掘っても水は出てこずに、そのかわり七、八メートルほど掘ると屋根瓦が出てきました。
「はて? こんなところに、どうして屋根瓦があるんじゃ?」
お百姓が瓦をどけると、ズボッと穴が開きました。
中をのぞきこむと、大きなほら穴があるではありませんか。
お百姓は家にもどるとちょうちんを持って、まっ暗な穴へおりていきました。
中を調べてみると、どうやら大きな家が土の中にうまっているようです。
「竜宮城は、海の底にあるという。地の底にも竜宮城のような物があって、おれはその人たちの家の屋根に穴を開けてしまったのかもしれんぞ。しかしそれにしても、大きな家だな」
お百姓は足元を気にしながら、おそるおそる奥へ入っていきました。
すると奥には、たくさんの酒樽がならんでいました。
その間を通って進むと、酒樽によりかかって二人のおじいさんが座っていたのです。
頭の毛はボーボーで、長いひげは床まで伸びています。
若いお百姓はびっくりしましたが、勇気を出してたずねました。
「あなた方は、どなたですか? こんなところで、何をしているのですか?」
ちょうちんの灯がまぶしいのか、おじいさんたちは両手で目をかくしました。
そして、おじいさんの一人が答えました。
「いつだったか忘れたが、浅間の山が爆発したとき、わしらはこの酒蔵に逃げ込んだんだ。するとすぐあとに、山くずれがおこってな。この蔵と一緒に、ここにうめられてしまったんじゃ」
それを聞いて、若いお百姓はびっくりです。
浅間山が大噴火をして大きな山くずれが起きたのは、自分がまだ生まれていない三十三年も前の事なのです。
「三十三年も二人で、よくこんなところで生きて」
若いお百姓のつぶやきに、もう一人のおじいさんが答えました。
「ああ、この蔵には三千樽の酒と、三千俵の米があったからな。おかげで今日まで、わしらは生きてこられたんじゃ。だがその米も、もうあとわずか。まっ暗でまったく動けないし、これからどうするかと二人で話しておったところじゃ。地上からきたあんたと会えて、こんなうれしいことはない」
二人のおじいさんはそう言いながら、なみだを流して喜びました。
若いお百姓は村人たちを大勢呼んでくると穴を広げて、光をまぶしがるおじいさんたちを少しずつ明るいところへ移しながら、何日もかかってやっと地上へ連れ出したのです。
その後、二人のおじいさんは地上の生活にもすっかりなれて、病気一つせずにおだやかな余生をすごしたという事です。
おしまい
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