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8月10日の小話
五両と五分
町内の若者たちが集まって、お祭りの出し物に芝居(しばい)をやろうと決めました。
そこで一番年上の男が、一番年下の男に芝居の役を書いた紙を渡して言いました。
「おい、三太(さんた)。お前、ひとっ走り呉服屋(ごふくや→服屋)まで行ってこい。そしてこれだけの衣装がいくらで出来るか、聞いてこい」
「おいきた」
三太は紙をにぎると、呉服屋までかけていきました。
三太から話を聞いた呉服屋の番頭(ばんとう→従業員のリーダー)は、紙に書いた役を読み上げながら、パチパチとそろばんをはじいて言いました。
「へえ、しめて、五両と五分(四十万円ほど)になります」
「五両と五分か」
三太は金額を忘れると困るので、番頭に言いました。
「あの、五両と五分を紙に書いてください」
すると番頭は、十本の指を出して言います。
「いやいや。紙に書くほどの事はない。こうしてこっちの指を一本一両と考えて、五本曲げると五両。こっちの指を一本一分と考えて、五本曲げると五分。両手を合わせると、ほれ、五両と五分。これなら忘れないだろう」
「なるほど。これは簡単だ」
三太は両手をにぎったまま、表へ出ると、
「こっちの指が五両。こっちの指が五分。両手を合わせて、五両と五分」
と、つぶやきながら歩いていました。
しかししばらくすると、三太は呉服屋に戻ってきて言いました。
「あのう、番頭さん。どうか二分か三分、まけてください」
「まあ、いいですが。それにしても、どうしたわけで?」
すると三太は、二つのこぶしを突き出して言いました。
「これでは帰っても、戸が開けられません」
♪ちゃんちゃん
(おしまい)
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