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ひつじのお話し 第 10 話
百匹のヒツジ
ドイツの昔話 → ドイツの国情報
むかしむかし、ある村に、ヒツジを百匹飼っている大金持ちと、ヒツジが三匹だけのまずしい家が、となり同士でくらしていました。
ある日まずしい家の息子は、三匹のヒツジに草をたくさん食べさせてもらうために、大金持ちの牧場へ働きに出ました。
そうして、何日かたったある日のこと。
お城の王さまがヒツジの肉を食べたいので、村から連れてくるよう家来に命じました。
王さまの命令でも、大金持ちの主人は自分の百匹のヒツジが一匹でもへるのをいやがって、まずしい家の息子のヒツジをさしだすように言いました。
息子は一匹を、泣きながら王さまの家来に渡しました。
すると王さまは一週間もたたないうちに、もう一匹ヒツジを連れてくるようにと命令したのです。
今度もまた大金持ちの主人は、まずしい家のヒツジをさしだすように言いつけました。
こうしてまずしい家では、ヒツジを二匹もとられたのです。
息子は残った一匹のヒツジを連れて、旅に出ることにしました。
そのことを知った息子のお父さんは、自分も息子を探しに旅に出ました。
お父さんは、お日さまにたずねました。
「お日さま。あなたは私の息子を知りませんか?」
お日さまは、気のどくそうにこう言いました。
「このところ雲(くも)にかくされていましたから、何も見ることができなかったんですよ。でも、もうすぐつむじ風が来るから、聞いてごらんなさい」
お父さんは大きな木に登り、枝にしっかりつかまってつむじ風を待ちました。
つむじ風が来ると、お父さんはさけびました。
「つむじ風さん、ヒツジを連れた息子を知りませんか?」
つむじ風は、ピューピューふきあれながら、
「ああ、知ってるぜ。連れて行ってやろう」
つむじ風はお父さんをつまみあげ、息子とヒツジがいる深い谷底へ連れて行きました。
お父さんと息子は、また会えたことを抱き合って喜びました。
そのようすを、神さまと弟子が見ていました。
神さまと弟子は、お父さんと息子の心を見てみようと、旅人の姿になって近づいて行きました。
「もし、もし・・・」
ボロボロの服を着た二人の旅人が声をかけると、お父さんと息子はすぐに目をさましました。
「はい。なんでしょうか?」
「私たちは長いこと旅を続けてきて、おなかがペコペコでたおれそうです。そのヒツジの肉を食べさせてもらえないでしょうか?」
旅人の言葉に、お父さんと息子はうなずきました。
二人の旅人は、
「おいしい。おいしい」
と、ヒツジの肉をたくさん食べました。
旅人の一人が、お父さんと息子に言いました。
「どうもごちそうさまでした。今夜ねる前に、私たちの食べ残した骨を、ヒツジの皮の中にいれておいてください」
お父さんと息子は首をかしげながらも、言うとおりにしました。
次の日の朝、二人が目を覚ますと昨日の旅人たちはおらず、かわりにヒツジが何百頭もいたのです。
おまけに、ヒツジたちを守る立派な番犬が、三匹もいました。
「わあ、すごいや。お父さん、数えきれないくらいのヒツジがいるよ」
お父さんも大喜びです。
そして、一匹のヒツジの角に、
《昨日はごちそうさまでした。おれいに、このヒツジたちをあなた方にさしあげましょう》
と、書かれているではありませんか。
お父さんと息子は、たくさんのヒツジを連れて家に帰りました。
そして、広い広い牧場を買いました。
それを見た大金持ちはすぐに飛んで来て、どうしてこうなれたのかたずねました。
お父さんと息子が、ボロボロの服を着た旅人のことを話すと、大金持ちは町へ走って行きました。
そして、ボロボロの服を着て、くらしにこまっていそうな人を見ると、
「ごちそうしてやる。うちへ来い!」
と、家に連れてきたのです。
それから、牧場にいたヒツジを全部殺して、ボロボロの服を着た人たちに食べさせました。
大金持ちは、それを見てニヤニヤ笑いながら、
「よしよし、これだけのヒツジを食べさせりゃあ、朝には千匹。いや一万匹のヒツジに変わっているだろう! わしは世界一のヒツジ持ちになれるぞ!」
そうして、おなかいっぱいになったボロボロの服を着た人たちが次々に眠ると、大金持ちは大急ぎで何千本もの骨をひろい集め、どんどんヒツジの皮の中にいれました。
さて、朝になってニワトリがないたので、大金持ちはいそいで牧場へ走って行きました。
「ウヒヒヒ。牧場には一万匹のヒツジがいるはずだ」
ところが牧場にいるのは、大いびきのボロボロの服を着た人たちと、ヒツジの皮に入れられた骨だけです。
「・・・なんてこった! こんなはずでは・・・」
あまりのショックに、大金持ちは気を失ってしまいました。
おしまい
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