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ひつじのお話し 第 12 話
青い煙のヒツジ
フランスの昔話 → フランスについて
むかしむかし、ピレネー山脈の山の中に、おじいさんのヒツジ飼いが住んでいました。
おじいさんは夕方なると、あちこちで草を食べているヒツジたちを、みんな呼び集めなければならないので、とても大忙しです。
もし、ヒツジを山に残したままにすると、夜の間にオオカミに襲われてしまうからです。
「さあ、早くこっちへ来るんだ」
おじいさんはムチを振り上げて命令しますが、ヒツジたちは、なかなか言う事をききません。
「何をしている! こっちへ来ないか」
いくらどなっても、ヒツジたちは知らん顔で草を食べています。
すると、これを見ていた妖精が、おじいさんをこう言いました。
「おじいさん。この棒をかまどの火に入れて、立ち上る青い煙で好きな物の姿を描いてごらんなさい。それが、きっとヒツジを呼び集めてくれるでしょう。そうすれば、おじいさんは、のんびりと星空をながめていられるでしょう」
おじいさんは、さっそく妖精がくれた棒をかまどに入れました。
そして立ち上る青い煙の中で棒を動かして、若いヒツジ飼いを描きました。
その若いヒツジ飼いは王子のように上品で、羽の付いたぼうしをかぶり、まっ赤なマントを着ています。
おじいさんは、その若いヒツジ飼いに頼みました。
「どうか、ヒツジたちを呼んで来ておくれ」
若いヒツジ飼いは角笛を吹くと、動かないヒツジたちにムチを振りましたが、ヒツジは草を食べるのに夢中で見向きもしません。
「・・・若い奴では駄目か」
しょんぼりと戻ってきた若いヒツジ飼いを、おじいさんは棒の先でなでて消しました。
「よし。今度は番犬にしよう」
おじいさんは青い煙で、今度は大きな犬を描きました。
「さあ番犬よ。ヒツジたちを呼んで来ておくれ」
「ワンワン!」
番犬は、風の様に走りまわりました。
「おっ、今度はうまく行くかな?」
おじいさんが見ていると、番犬に吠えられたヒツジは草を食べるのを止めましたが、でも番犬を怖がって動こうとしません。
「・・・番犬では駄目か」
おじいさんは、番犬も棒の先でなでて消しました。
「番犬が駄目なら、オオカミはどうだろう?」
おじいさんがオオカミを描くと、オオカミは鋭く、
「ウォーーーーン!」
と、吠えました。
そのオオカミの声を聞いたヒツジたちは、びっくりして逃げ出しました。
「そうそう、その調子だ。そうやって、ヒツジを一頭残らず連れてきておくれ」
おじさんは、今度こそはと期待しましたが、オオカミはヒツジを連れてくるどころか、逃げるヒツジを捕まえては食べ始めました。
「・・・オオカミでは駄目か」
おじいさんはがっかりして、オオカミも消しました。
「ああ、若いヒツジ飼いも、番犬も、オオカミも、どれも役に立たなかった」
おじいさんは、もう一度かまどの前に座って考えました。
「これまでは、力ずくでヒツジを集めようとしたけど駄目だった。北風と太陽の話にあるように、力ずくではなく、相手の気持ちになって考えれば、うまく行くかもしれんぞ」
おじいさんは、今度は年寄りのヒツジを一頭描きました。
「年寄りは話し上手なはず。年寄りのヒツジさんよ、どうかわしのヒツジたちに、面白い話をしてやってくれないか?」
「メェーー」
年寄りのヒツジは、静かにうなずきました。
もう体が弱っているので、遠くまで歩く事が出来ません。
そこで近くの野原にうずくまると、ぽつりぽつりと話し始めました。
「これは、わしが若かった頃に聞いた話しだが・・・」
すると、どうでしょう。
まもなく十頭、二十頭、三十頭と、ヒツジたちが残らず年寄りのヒツジのまわりに集まり、そのおもしろい話に耳を傾ける様になりました。
その日から、夕暮れになるといつも年寄りヒツジのまわりにヒツジたちが集まってきます。
おかげで、おじいさんは星空をのんびりながめていられるようになりました。
おしまい
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