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    福娘童話集 > きょうの日本民話 > 2月の日本民話 > ネコの置物を売る店 
      2月13日の日本民話 
          
          
         
  ネコの置物を売る店 
  東京都の民話 → 東京都情報 
       むかしむかし、江戸(えど→東京都)の浅草(あさくさ)に野菜売りの男がいました。 
   貧乏なくらしでしたが、おかみさんと仲がよく、年おいた父親をとても大切にしています。 
   ところが父親が病気になり、寝たきりになってしまったのです。 
   男はおかみさんとかわるがわる看病(かんびょう)にあたり、父親の具合がいい時だけ野菜売りに出かけました。 
   おかげでいよいよ貧乏になり、その日食べる米も買えなくなったのです。 
   もちろん、父親を医者にみせるどころではありません。 
  「ほんとうに、どうしようかね」 
   おかみさんが、ふかいため息をつきました。 
  「なんとかするから、かんべんしてくれ。おやじさんが心配で、仕事もおちおちやっていられないのだ」 
   男はおかみさんにあやまると、家にいるネコを抱きあげました。 
  「見てのとおりの暮らしで、お前に食べさせるものさえなくなってしもうた。長い間一緒にくらしてきたお前に出ていけとは言わないけれど、このままじゃ、どうにもならん。よく考えて、お前の好きなようにしてくれ」 
   それを聞いたおかみさんが、 
  「おまえさん。ネコにそんなこと言ったって、言葉がわかるわけじゃないの。かわいそうだけど、そのうちにわたしがどっかへすててくるよ」 
  と、言ったのですが、その次の日、ネコの姿が見えなくなりました。 
   二、三日たってもネコの帰ってくる気配はありませんでしたが、それでもいそがしさにまぎれて、二人がネコの事をわすれていたら、ある日、父親がいいました。 
  「昼間のうちは、さっぱりネコの姿を見かけないようだが、どうしたのだ?」 
   言われて男もおかみさんも、やっと気がつきました。 
  「そういえばネコのやつ、どこへ行ったのだろう?」 
   男が言うと、おかみさんが言いました。 
  「うっかりしていたけど、じつは二、三日前家を出たまま、もどってきていないようなの」 
   すると、父親が言いました。 
  「いいや、そんなことはない。ネコは毎晩、わしの所で眠っている。腰が痛いと思うと腰にのぼり、肩が痛いと思うと肩にのぼる。ありがたいことに、ネコがのぼると痛みがやわらいでよく眠れるのだ。悪いが、お前たちがさすってくれるより気持ちがいいくらいだ。それなのに昼間は家にいないとすると、どこでどうやって食べているのやら」 
   それを聞いて、男とおかみさんもネコに悪いことを言ったと後悔(こうかい)しました。 
  「まさか、ネコに人の言葉がわかるとは思わなかった」 
  「ほんとにね。でも、わかったから家を出ていったのよ」 
  「今夜おやじさんのところへ来たら、ずっと家にいてくれるように頼んでもらおう」 
  「そうよ。いくら貧乏でもネコの食べ物ぐらい、なんとかつごうするから」 
   ところがネコはいつ来ていつ帰っていくのか、父親にもわかりませんでした。 
  と、いうのも、痛いところにネコがのぼっているうちに、父親はいい気持ちになって、すぐにねむりこんでしまうからです。 
   さて、ネコのおかげで、父親の具合がだんだんよくなっていきました。 
   そんなある日の事、男の家に金持ちらしい商人が現れ、 
  「あなたの家にネコがいますか? いたら、ぜひゆずってください」 
  と、言うのです。 
  「たしかに一匹いることはいますが、夜しかもどってこないので、どこにいるかわかりません。それにわしらには大切なネコで、いくら金をつまれてもゆずるわけにはいきません」 
   男は、きっぱりとことわりました。 
   すると商人は、笑いながら首をふり、 
  「いやいや、生きたネコの事ではありません。ネコの置き物のことです」 
  と、言ったのです。 
   そういえば、知りあいの人が面白半分に土でつくったネコの置き物があります。 
   男は棚の上でほこりをかぶっている置き物を出してきて、商人に見せました。 
  「おう、これこれ。これをぜひゆずってください」 
  「ああ、いいですが、しかし、こんなものをどうして?」 
   男がたずねると、商人はニコニコしながらわけを話しました。 
  「じつはゆうべ、面白い夢を見ましてね。どこかのネコが夢の中に現れて、『浅草の野菜売りの家にネコの置き物があるから、それをゆずってもらえば、ますます商売がはんじょうする』と言うのです」 
  「なるほど。それでわたしのところへ」 
  「はい、おたくにとっても大切なものと思いますが、そこをなんとか」 
   商人は小判を何枚も出して、手をあわせました。 
   それだけあれば、当分生活にはこまりません。 
  「わかりました。おゆずりしましょう」 
   男がネコの置き物を渡すと、商人は喜んで帰っていきました。 
   それにしても、あんなガラクタの置き物がなぜ商売につながるのか、男にはよくわかりません。 
   ですが次の日、同じような夢を見たという客がやってきたのです。 
   しかし家には、もうネコの置き物はありません。 
   客が帰ったあと、 
  「あんな客がまた来たら、どうしよう?」 
  と、三人で話しあっていたら、近所の親しい人がやってきて、 
  「今戸焼(いまどや)きのネコを買ってきて、家に置いておけばいい」 
  と、教えてくれたのです。 
   今戸(いまど→東京都台東区の北東部で隅田川に面する地名)というところは焼き物が盛んで、主にネコやカッパの置き物をつくっていました。 
   男は商人からもらった金を持って今戸へ行き、ネコの置き物を二十個ほど仕入れてきました。 
   すると次々に客がやってきて、ネコの置き物は面白いように売れるのです。 
   ネコのおかげで、男は金持ちになりました。 
   それとうれしい事に父親の病気はどんどんよくなり、家出していたネコももどってきたのです。 
   男は野菜売りをやめて、浅草の観音さまの境内(けいだい)に店をかまえると、ネコの置き物を売ることにしました。 
   小さな置き物から大きな置き物まで、たくさんの品物を仕入れて、座布団(ざぶとん)をつけて売ったのです。 
   それから半年後、家を助けたネコの話が江戸中に広がり、浅草へ来た人はみんなこの店の置き物を買うようになったのです。 
   さて、あの生きた方のネコは、一日中店の奥にいて、座布団の上に座っていましたが、次の年、眠るようにして死んだという事です。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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