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        4月1日の日本民話 
          
          
         
テッジ 
東京都の民話 → 東京都情報 
       むかしむかし、八丈島(はちじょうじま→東京都)に、菊池虎之助(きくちとらのすけ)と、いう神主(かんぬし)さんがいました。 
   虎之助はある時、庭に八本柱のりっぱな蔵(くら)をつくりましたが、なん日かすると家の人が、 
  「夜になるとあの蔵に、何にやらえたいの知れないバケモノが出るんです」 
  と、いいだしたのです。 
  「神さまをまつっている神主の家の者が、自分の家にバケモノが出るとはなにごとだ! だいたいバケモノなど、この世にはいないんだ。しっかりしろ!」 
   虎之助は、しかるようにいいました。 
   それでもやはり夜になると、蔵の中でおかしな物音がすると、家の人がいうのです。 
   虎之助は、 
  「いつまでもバカな事をいっているではない。夜になると物音がきこえるというのは、新しい蔵の方がいごこちがいいというので、家にいるネズミどもがひっこしでもしたんだろう」 
  と、話しを聞いてくれません。 
   けれども、こんな話しがうわさとなって島中に広がりだしたら大変です。 
   そこで虎之助は、島の若者たちにたのんで、しばらく蔵の中で寝てもらうことにしました。 
   次の日の朝、蔵の中から出てきた若者にたずねると、若者たちはニコニコして、 
  「まだまだ新しい木のかおりがして、まるで極楽(ごくらく)にいるようでした。朝まで一度も目をさましませんでしたよ」 
  と、答えました。 
  「それみろ。つまらないことをいわずに、お前たちも今夜から蔵の中で寝たらどうだ? ぐっすり休めるぞ。あはははは」 
   虎之助は、これで家の人も安心しただろうと思いましたが、ところが次の日の朝になると、若者たちは青い顔をして蔵の中から出てきたのです。 
  「何か、あったのかね?」 
   虎之助が、たずねると、 
  「夜中に蔵がギシギシとゆれだして、昨日の夜はぜんぜんねむれませんでした。いつ蔵がつぶれるかと思いました。もう、こんなおそろしいところに寝るのはいやです!」 
   若者たちは、逃げるようにして帰っていきました。 
   そこで虎之助は夜になると、刀(かたな)を手に庭のかたすみにかくれて、自分でようすをうかがうことにしました。 
   蔵のわきにある大木のてっぺんの枝に、ちょうど十三夜のかけた月がかかったときです。 
   ザワザワと、うら山の木々がさわぎだしました。 
   そして二メートルをこえる大きなかげのようなものが、風にのって林の中から走ってきたかとおもうと、蔵の戸口にとりついて、カギのかかった戸を無理やり開こうとゆさぶりはじめたのです。 
   蔵は船のように、グラグラとゆれだしました。 
   そのとき、人の気配を感じたのか、大きな黒いかげがふりむきました。 
   茶わんほどもある大きな目玉が、白く光っています。 
   口からはくいきはほのおのように赤くもえて、葉っぱをまとった体のむねから上ははだかです。 
   そして長くたれさがった右のおっぱいを左のかたに、左のおっぱいを右のかたの上にひっかけていました。 
  「あいつは、テッジだな」 
   虎之助は、つぶやきました。 
   テッジというのは、八丈島の山の中にすんでいるというバケモノです。 
   虎之助は信じていませんでしたが、そいつはいたのです。 
  (けれども、どうしてそのテッジが、新築したばかりのわしの家の蔵へやってきたのだろう) 
   テッジは戸をあけようとして、またはげしく蔵をゆすりました。 
  (あんなバケモノに蔵をつぶされてなるものか。神主の家がバケモノにねらわれているなんて、大わらいではすまされぬ。よし、今だ!) 
   虎之助は手にしていた刀のさやをはらいのけると、両手ににぎりしめて走っていきました。 
   そして体当たりするように、テッジのからだに刀をつきさしました。 
  「ギャオーッ!」 
   ふいをくらったテッジは大声をあげて身をひるがえすと、風のようにうら山へにげていきました。 
   つぎの日の朝、虎之助は家の者と一緒に、血のあとをたどって山へ入っていきました。 
   てんてんとつづく血のあとは、大きな岩の前できえています。 
   しかしその血は赤ではなく、たまごのきみのように、黄色だったという事です。 
      おしまい 
                  
 
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