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11月12日の日本民話
こぼれる、こぼれる
石川県の民話 → 石川県情報
むかしむかし、能登(のと→石川県)には、さんえもんという、とんちの上手な人がいて、みんなからは『さんにょも』とよばれていました。
ある日、村の男たちが集まって酒もりをしていると、さんにょもが手ぶらでやって来ました。
「わしも、仲間に入れてくれ」
そして酒やごちそうをさんざん飲み食いすると、
「それでは、ごちそうさん」
と、言って、さっさと帰ってしまいました。
その場にいた男たちは、カンカンです。
「なんだあいつ。手ぶらで来たくせに、さんざん飲み食いしやがって」
「そうだ! 今度手ぶらで来たら、追い返してやろう」
それを知ったさんにょもは、
「そうか、手ぶらでは入れてくれんか。まあ、入ってしまえばどうとでもなるが」
と、ある作戦を考えました。
次の晩、さんにょもは男たちが酒もりをしている場所へ、またしても手ぶらで出かけました。
やって来ると、戸がピタリと閉められています。
「開けてくれ、さんえもんだ」
すると、中にいる男たちが言いました。
「酒を買って来るまでは、中に入れてやらん」
それを聞いたさんにょもが、待ってましたとばかりに言いました。
「何を言っている! はやく開けてくれんと、こぼれてしまうだろう! ああ、こぼれそうじゃ、こぼれそうじゃ」
「何じゃ、それをはやく言え」
男たちはてっきり、さんにょもがお酒を買って来たものだと思って、急いで戸を開けました。
ところがさんにょもは、いつもの通りの手ぶらだったのです。
男たちは、さんにょもに文句を言いました。
「何だ?! 『こぼれそうじゃ』と言うから開けてやったのに、手ぶらじゃねえか。よくもうそをついたな!」
するとさんにょもは、平気な顔で言いました。
「うそなもんか。わしはな、さむくてさむくて、鼻水が『こぼれそうじゃ』と言ったんじゃ。・・・おや? 今日はなべか、これは体があたたまりそうじゃ」
さんにょもはわざと鼻水をすすり上げると、またしても手ぶらで飲み食いをしました。
おしまい
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