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11月12日の日本の昔話
とっつく、くっつく
むかしむかし、ある村に、与作(よさく)という男がいました。
大変な恐がりで、長いへちまがぶらさがっているのを見てドッキリ、草がざわついてもドッキリ。
ネズミが現れると腰をぬかして、
「おかか、助けてくれろっ!」
と、いったしだいです。
「やんれ、こんなでは、この先どうなるもんだか」
と、おかみさんもなげいておりました。
ある日、与作は村の寄り合いに出かけましたが、帰りは日もくれて、おまけに雨も降っています。
「気味が悪いな。化けもんが出よったら、どうしよう?」
ヒヤヒヤのビクビクで、ようやく家にたどりつきました。
「やんれ、これでまんず安心」
だけれどこの安心がゆだんのもとで、戸口に足を入れたとたん、気味の悪い冷たい手が与作の首をつかまえました。
「ヒェェー! おかか! 助けてくれろっ。おら、化けもんにつかまっちまったあ」
おかみさんがよく見ると、屋根の雨粒が与作の首をぬらしていました。
「屋根の雨ん粒やないか。化けもんちゅうもんは、みんなこういうもんだよ、お前さん」
「へええ、化けもんちゅうのは、みな雨ん粒の事か」
さて次の日、友だちの作ベえどんに出会いました。
「与作どん、聞いたか? 川っぷちに毎晩、化けもんが出るちゅうこった」
「ははん、雨ん粒だな」
「なんやらわからんような、恐ろしいやつが追いかけてきよるんだと」
あの晩から化け物は雨粒だと思い込んでいる与作は、全然恐くありません。
「だらしねえやつらだ。よし、おらが行ってこらしめてやる」
与作がその晩、川っぷちに出かけて行くと、草の中から気味の悪い声が聞こえて来ました。
「・・・とっつくぞお、・・・くっつくぞお」
(全然、怖くねえ。化けもんは、みな雨ん粒だから平気なもんだ)
与作は、その気味の悪い声にむかって、
「ああ、とっつけや、くっつけや」
「・・・とっつくぞお、・・・くっつくぞお」
「ええとも、とっつけや、くっつけや」
すると草がザワザワとゆれて、まっ黒けの奇妙(きみょう)なやつが出てきて、
「そんなら与作どん、お前にくっつくからおんぶしろ」
「しかたねえな。そら、背中につかまれや」
与作が化け物をおんぶして歩き出すと、チャリン、チャリンと音がします。
「おまえの体はばかにかたいな。それに、ズッシリと重い。のう、雨ん粒お化け」
「そうとも、おらはこれから、与作どんの家で暮らす事にしたぞ」
与作が化け物を連れて帰って来ると、おかみさんは大喜び。
「まあ、お前さん、こりゃ、まあ!」
与作がおんぶしてきた物は大きなかめで、その中には何とピカピカの小判がギッチリと詰まっていました。
おしまい
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