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    福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 8月の日本昔話 > 約束の日 
      8月18日の日本の昔話 
          
          
         
  約束の日 
       むかし、江戸の本所(ほんじょ)の、いろは長屋のおくに、山口浪之介(やまぐちなみのすけ)と光川新衛門(みつかわしんえもん)という浪人(ろうにん→詳細)が、いっしょにくらしていました。 
   このふたりは小さいときからの友だちで、ずっとおなじ殿さまにつかえていましたが、殿さまの家がつぶれて以来、ながい浪人ぐらしで、いまではその日の米代にもこまるありさまです。 
  「のう、浪之介(なみのすけ)。こんなことをしておっては、ふたりとものたれ死にをするばかりだ。いっそ、べつべつにくらしの道を考えてはどうだろう?」 
  「なるほど。それもよかろう。では新衛門(しんえもん)。三年たったらまたあおう。きっと、わすれずにな」 
   ふたりは、あう場所と時間をきめて、 
  「では、三年あとに」 
  「さらば、三年あとに、かならず」 
  と、かたく約束してわかれました。 
   月日は流れて、まもなく三年です。 
   ところが、山口浪之介(やまぐちなみのすけ)のほうは、どうまちがったのか、世間に名高い盗賊(とうぞく)なって、東海道(とうかいどう)をまたにかけて、あらしまわっていました。 
   それがある日、ドジをふんで役人につかまり、きのう、やっとのことで逃げ出して、海へとのがれたのです。 
   そのとき、ハッと、約束の日のことを思いだしました。 
  「そうだ。このまま東へこいで、江戸へくだろう」 
   浪之介は、むしょうに新衛門にあいたくなりました。 
  が、運のわるいことに、突風にあって、あっというまに舟もろとも、波にのまれて死んでしまったのです。 
   そのころ光川新衛門(みつかわしんえもん)は、江戸にのこって、南町奉行所(みなみまちぶぎょうしょ→裁判所)のしらべ役になっていました。 
   友だちの浪之介が盗賊になって、江戸に人相書(にんそうがき→犯人の顔のイラスト)までまわっていることを、よく知っていました。 
   今日は約束の日の朝。 
  「たとえ、浪之介(なみのすけ)がどのような身になろうと、わしにとっては、かけがえのない友だちだ。あおう。やはりあいにいこう」 
   新衛門が、こう心をきめたそのとき。 
   なんと目の前に、浪之介がすわっているではありませんか。 
  「おお、浪之介。よくきた」 
   そういって、新衛門はハッとしました。 
  (ばかな、人相書までまわっているおまえが、なんでおれの家などにくるのだ) 
  「さあ、浪之介、おれがうしろをむいているいるまに、どうかにげてくれ」 
   すると、浪之介はさびしくわらって、こういいました。 
  「なにをいうのだ。おれはおまえの手でしばってもらおうと思ったからこそ、わざわざここまでやってきたのではないか」 
   浪之介は、小伝馬町(こでんまちょう)の牢(ろう)に入れられました。 
   ところがその夜、番人が見まわりにいくと、 
  「新衛門どのに、くれぐれもよろしく」 
  と、いいのこし、ニッコリわらって、スーッと消えてしまったのです。 
   浪之介のすわっていた牢の床は、ビッショリとぬれていました。 
   それも、塩気のある海の水だったそうです。 
   浪之介は死んでも、約束通り友だちの新衛門に会いに来たのでした。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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