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    福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 8月の日本昔話 > 重箱おばけ 
      8月14日の日本の昔話 
          
          
         
  重箱おばけ 
       むかしむかし、ある町のはずれに、法華坂(ほっけざか)という、かなりきゅうな坂がありました。 
   ふだんは人どおりのない、ひどくさびしいところで、たまに旅のものがとおるくらいのものでした。 
   さて、この坂の上に茶店が一けん、坂の下にも茶店が一けん、ちょうど、おなじようにたっていました。 
   ところがこの法華坂には、近ごろ、ばけものがでるといううわさです。 
   なんでもそのばけものは、重箱(じゅうばこ→食物を盛る箱形の容器で、2重・3重・5重に積み重ねられるようにしたもの)みたいな顔をしていて、しゃべるときは、パカパカとふたがあくといいます。 
   それで、町の人たちは、 
  「重箱おばけ」 
  と、いって、こわがっていたのです。 
   この話をきいた、ひとりの侍が、 
  「まことに、けしからんばけものじゃ。拙者(せっしゃ)が退治(たいじ)してくれよう」 
  と、こしの刀をしっかりおさえ、法華坂をのぼっていきました。 
   いまでるか、いまでるかと、用心しながらのぼっていきましたが、なにもでません。 
   ついに坂をのぼりきってしまいましたが、ばけものは現れませんでした。 
  「ふん、拙者がこわくて、でてこれんのじゃろう。やい、ばけものめ。でるのか? でんのか?」 
   あちらこちらを見まわし、どなってみましたが、いっこうに返事がありません。 
   侍は、上の茶店の縁台(えんだい→木・竹などで作り、庭などに置いて夕涼みなどに用いる、細長い腰かけ台)にこしをおろして、わらじ(→詳細)のひもをしめなおしながら、 
  「おい、おかみさん。おかみさん」 
  と、よびました。 
  「はい」 
  「なにか、あったかいものを一つ、たべさせてくれんか」 
  「はい、はい」 
   茶店のおかみさんは、むこうをむいたまま返事をしました。 
   侍は前にあった茶わんに、かってに湯をさしてのみながらたずねました。 
  「おかみさん。ここらに、重箱おばけがでるという、うわさをきいたが、いまでもでるかな」 
  「はい。ときどき」 
  「ほう、でるかね。そいつはいったいどんなやつか、お目にかかりたいもんだ」 
   すると、うしろむきの女は、 
  「いいですよ。重箱おばけというのは」 
  と、いきなりクルリと、侍のほうをむきました。 
   その顔は、大きな重箱のように、まっ四角で、目もはなも口もありません。 
   ふたがパカッと開いて、 
  「こんなもんです。ベーッ」 
  と、ながい舌でアカンベーをしました。 
  「うわーっ!!」 
   侍はビックリして、とびあがりました。 
   退治するどころか逃げ出すのがせいいっぱいで、茶店をとびだすと、ころがるように坂をかけおりていきました。 
   そして、坂下にある茶店にとびこむと、ハアハアと、いきをきらせて、やっと柱につかまりながら、そばの縁台にこしをおろしました。 
   まだ、ひざがガクガクとふるえています。 
   おくではたらいている、茶店の女に声をかけました。 
  「いやはや、おそろしいかおじゃったわい。たったいま、拙者は重箱おばけを見てきたぞ。ねえさん。おまえさんはこんなところにおって、おそろしゅうはないのかね」 
  「いいえ、ちっとも」 
   女はふりむきもせずに、こたえました。 
  「そうかい。若いねえさんがこわくないとは、おどろいたな。だがそれは、重箱おばけがどんなもんか、しらんからだろう」 
   すると、その女は、 
  「あら、知っていますよ」 
  と、いきなりクルリと、こっちをむいて。 
  「だってあたしも、重箱おばけですから。ベーッ」 
  「ギャアアーー!!」 
   侍はとびあがると、すごいはやさで町へにげかえったそうです。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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