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    福娘童話集 > きょうの日本民話 > 6月の日本民話 > 安珍清姫 
      6月6日の日本民話 
          
          
         
        安珍清姫 
  和歌山県の民話 → 和歌山県情報 
       むかしむかし、安珍(あんちん)という名の若い旅のお坊さんが、紀州(きしゅう→和歌山県)の熊野大社(くまのたいしゃ)へおまいりするとちゅうで、とっぷりと日がくれて困っていました。 
        「今夜の宿を、どこかにさがさねば」 
        安珍は庄屋(しょうや)の家にとめてもらうことにしましたが、この家には清姫(きよひめ)という一人娘がいて、つかれた安珍をやさしくもてなしました。 
        そうこうするうちに、清姫と安珍は、つよく心がひかれるようになりました。 
        しかし、修行中のお坊さんが、女の人に心をうばわれるのはゆるされないことです。 
        でも安珍は、清姫に、 
        「熊野からの帰りには、かならずここによります。・・・あなたにあうために」 
        と、かたい約束をしてしまいました。 
        さて次の日、安珍はぶじに熊野大社につきましたが、熊野の僧侶(そうりょ)たちに安珍の心のまよいを見抜かれて、早くまよいからさめるようにと、教えさとされました。 
        「たしかに、わたしは修行中の身、女に心をうばわれるなど」 
        そこで安珍は清姫と会わないために、帰り道は、来るときとはちがう道をいくことにしました。 
        ところが清姫は、そんな事とはつゆしらず、いまかいまかと安珍の帰りを待ちわびています。 
        「安珍さま。安珍さまは、どうなされたのじゃろう?」 
        待ちきれなくなった清姫は、家を飛び出すと、見知らぬ旅人に声をかけました。 
        「あの、もし、熊野もうでの若い旅のお坊さまに、お会いになりはしませんでしたか?」 
        「ああ、その方なら、たぶん別の道をいかれたと思うが」 
        「別の道を! あんなにかたい約束をしたのに、まさか。そんなはずが」 
        清姫は、夢中でかいどうを走りだしました。 
        それはもう、くるったように走って走って、走りつづけます。 
        そして日高川のわたし場まできたとき、やっと安珍のすがたを見つけることができました。 
        「安珍さまー。安珍さまー」 
        走ってくる清姫に気づいた安珍は、清姫には二度と会ってはならないのだと、自分にそういいきかせ、 
        「船頭(せんどう)さん、は、早く船を出してくだされ。は、早く!」 
        と、船頭をせきたてます。 
        「安珍さまーっ、安珍さま。なぜ、どうして、安珍さまー」 
        清姫は自分から逃げていこうとする安珍におどろき悲しみ、やがて、そのおもいは、はげしい憎しみへとかわっていったのです。 
        「これほど、これほどおもっているのに、なぜ逃げるのです。なぜ、なぜ逃げるのじゃ!」 
        清姫は安珍ののった船を追って、そのまま日高川の水の中へ飛び込みました。 
        そしていつのまにか、清姫はおそろしい大蛇の姿になって、川をわたっていったのです。 
        「にっくき、安珍め!」 
        船をおりると、安珍はむちゅうで走り出しました。 
        そしてそれを追う、大蛇。 
        街道(かいどう)のそばに、道成寺というお寺がありました。 
        安珍は必死の思いで、このお寺に逃げ込むと、 
        「どうか、わたしをお助けください。追われております。どうか、この寺へおかくまいください」 
        「それならば」 
        寺の人たちはつりがねをおろして、その中に安珍をかくまってくれました。 
        安珍はそのつりがねの中に身をかくし、しずかにお経をとなえつづけます。 
        清姫の大蛇は道成寺の石段をうねうねとのぼると、山門をくぐって安珍をさがしもとめました。 
        そうしてついに、大蛇は安珍の隠れるつりがねを見つけたのです。 
        「見つけたぞ、いとしい人。もうはなさない」 
        大蛇はそのつりがねの上から体をグルグルとまきつけると、大きな口からまっ赤なほのおをはきつづけたのです。 
        安珍は、まっ赤にそまるかねの中で、一心にお経をとなえつづけます。 
        でも、ほのおでまっ赤になったかねの中で、とうとう安珍は、やけ死んでしまったのです。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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