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    福娘童話集 > きょうの日本民話 > 11月の日本民話 > 三人なき 
      11月9日の日本民話 
          
          
         
  三人なき 
  岡山県の民話 → 岡山県情報 
       むかしむかし、あるところに、おばあさんが一人で住んでいました。 
   ある日の事、遠くへはたらきに行っている息子から手紙が来ました。 
   でも、おばあさんは字を知らないので、手紙が読めません。 
   すると向こうから一人の侍(さむらい)がやって来たので、おばあさんはたのみました。 
  「もしもし、お侍さん、息子から手紙をもらったのですが、わたしは字がわかりません。どうか、この手紙を読んでください」 
   侍は手紙をうけとり、しばらくジッと見ていましたが、突然ポロポロと涙をこぼしました。 
   おばあさんは、ビックリです。 
  「お侍さん、何か悪い知らせでも書いてあるのですか? どんなことでもおどろきません。教えてください」 
   ところが侍は涙を流すばかりで、何も言いません。 
  (ああ、これはきっと、とても悪い知らせにちがいない) 
   そう思うと、おばあさんはきゅうに悲しくなって、涙をポロポロこぼしました。 
   そこへ、土で出来たおなべを売る、ほうろく売りがやって来ました。 
  「もしもし、どうしたのですか?」 
   ほうろく売りがたずねても、侍とおばあさんは泣くばかりです。 
   するとほうろく売りも、荷物をそこへおいて手紙を見るなり、泣き出しました。 
   通りかかった人は、いったい何ごとが起きたのかと、三人のまわりに集まってきました。 
  「さあ、泣いてばかりいないで、わけを話しなさい」 
  「こまったことがあるなら、力をかしてやりましょう」 
   すると、ほうろく売りが言いました。 
  「じつは去年の今ごろ、ほうろくを売りに行ったら、とちゅうで転んでみんな割ってしまいました。くやしくて泣きたいほどでしたが、いそがしいので泣くのをのばしました。ちょうどここを通りかかると二人が泣いているので、その時の事を思い出して、今、ないているのです」 
  「なんと。まったくあきれた人だ。それじゃおばあさんは、どうしてないているのですか?」 
   一人が、たずねました。 
  「はい、実は息子から手紙が来たので、このお侍さんに読んでもらおうとしたら、お侍さんが何も言わずに泣き出したんです。これは、きっと悪い知らせにちがいない。そう思うと悲しくて悲しくて・・・」 
   おばあさんは、涙でグチャグチャになった顔をふきました。 
  「そうか。それはお気の毒に。さあ、お侍さん、ないてばかりいないで、早く息子さんのようすを教えてあげたらどうです?」 
   すると侍は顔をあげて、なさけない声で言いました。 
  「手紙を読めるくらいなら、泣きはせん。わしは小さいとき、少しも本を読まなかったので字がわからない。それがくやしくてないているのだ。ああ、こんなことなら、ちゃんと本を読んでいればよかった」 
  「なんだ、そんなことか」 
   みんなはあきれて、ものも言えません。 
   ちなみに、息子さんの手紙には、 
  《元気ではたらいているから、心配しないでください。近いうちに、お土産を持って帰ります》 
  と、書いてあったそうです。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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