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福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 2月の日本昔話 > 餅の的 
      2月16日の日本の昔話 
          
          
         
  餅の的 
      京都府の民話→ 京都府情報 
      
       むかしむかし、田野(たの)というところの、いなかの人たちは、その年も、去年も、おととしも、お米がよく取れたので、みんなが大喜びでした。 
 そこは、お米を作るのに、たいへんよい土地だったのでしょう。 
 日でりといって、すこしも雨が降らないで、田に水がなくなったら、稲(いね)はうまく育ちません。 
 反対に、長い雨が降りつづいても、稲は、うまくみのりません。 
 お米づくりは、なかなかやっかいな仕事なのです。 
 ところが、田野の人びとは、あんまりお米が取れるので、だんだんお米のありがたいことを忘れてしまうようになってきました。 
「取れたお米で、お酒をつくって飲もう」 
 ひとりがいうと、 
「お米でもちをついて、腹いっぱい食べよう」 
 ほかのひとりは、そんなふうにいいます。 
 そのうちに、めいめいが、じぶんの家で食べたり、飲んだりしているだけではつまらなくなりました。 
 そこで近所の人がおおぜい集まって、みんなでごちそうを食べたり、お酒を飲んだりするようになりました。 
 お酒を飲むと、みんなは、ばかにうれしくなって、 
「それっ、歌をうたえ」 
「それ、おどりをおどれ」 
 みんなはいい気になって、なん日もなん日も遊びくらしていました。 
 ある日、若い男たちが何人か集まったときに、その中のひとりが、 
「どうだ、ここにかがみもちがある。このもちをまとにして、だれがいちばん、じょうずに矢をまとにあてることができるか、そのうでくらべをしてみようではないか」 
 そういって、大きな丸いもちを見せました。 
「へえ、もちのまとか。これは、見たことも聞いたこともない話だ。おもしろい。さっそくやるとしよう」 
 若い男たちは、ワイワイいいながら、かがみもちにひもをつけて、庭さきの木の枝につりさげました。 
「さあ、だれからでもよい。やってみろ!」 
 みんなが見ていると、ひとりの男が弓に矢をつがえ、もちのまとを目がけて、ヒュッ! とはなちました。 
 すると、もちに矢が当たったとたんに、 
「ああっ!」 
 ふしぎなことに、もちはまっ白い鳥になって、南の空をめざし、遠く遠く飛んでいってしまいました。 
 あとには、木の枝からつりさがったひもだけが、フワリフワリと、風にゆれているばかりです。 
 これからあと、この田野というところは、すこしもお米が取れなくなって、びんぼうになってしまったということです。 
      おしまい 
      別バージョン 
          
        むかしむかし、田野(たの)という所は毎年毎年豊作でした。 
         ですから田野の人々は、だんだんと、お米を作る苦労やお米のありがたみを忘れてしまったのです。 
  「今年も豊作で食べきれないから、取れたお米でお餅を作ろう」 
  「お餅を作ってもまだ余るな。お酒を造って飲みまくろう」 
   こうして、お米でお餅やお酒を作っている内は良かったのですが、そのうち若者の一人がこんな事を言い出しました。 
  「ここにある鏡餅、どうせ食べきれないのだから、これを矢の的(まと)にしないか? 誰が一番上手に当てるか、腕比べをしようではないか」 
  「へえ、餅の的か。これは見た事も聞いた事もない話だ。面白い。さっそく始めるか」 
   若者たちはワイワイ言いながら鏡餅にひもを付けると、庭先の木の枝に吊り下げました。 
  「さあ、誰が最初にやるんだ?」 
  「よし、おれがやろう」 
   みんなが見ていると一人の男が弓に矢をつがえ、餅の的に目掛けて矢を放ちました。 
   ヒュン! 
   すると、餅の的に矢が当たった途端、不思議な事に餅は真っ白な鳥になって、南の空を目指して遠くへ飛んで行ってしまったのです。 
   
   そしてこの時から、田野では少しもお米が取れなくなって、とても貧しい生活を送ることになってしまったそうです。 
      おしまい 
         
         
        
 
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