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    福娘童話集 > きょうの日本民話 > 1月の日本民話 > 鬼のうで 
      1月18日の日本民話 
          
          
         
  鬼のうで 
  東京都の民話 → 東京都情報 
       明治になってまもないころ、浅草(あさくさ)に、田宮義和(たみやよしかず)という男がすんでいました。 
   この男はもともと侍(さむらい)だったそうで、どこで手に入れたのか、『鬼のうで』という、不思議な物を持っていました。 
   そのうでは田宮の言う事を何でもきき、家のそうじやせんたく、台所の仕事から身のまわりの世話まで、田宮は全て、この鬼のうでにやらせていたのです。 
   銭湯へいくときなどは、このうでをつれていって背中を流させたり、手足をあらわせたりしながら、ほかの入浴客とのんきに話しをしていたそうです。 
   町の人が田宮の家へいくと、田宮は鬼のうでに、肩やこしをもませているのです。 
  「このうでは女房みたいなものだ。いや、人間の女房以上によく働くぞ。それにめしも食わせんでよいし、着物をねだられる心配もない」 
   ところが、冬のある日の事。 
   富山(とやま)の薬売りが、毎年薬を買ってくれる田宮の家へやってきました。 
  「こんにちは、いつもの薬売りです」 
   薬売りがいくらよんでも、返事がありません。 
   そこで薬売りは家へあがって、部屋の障子(しょうじ)をそうっと開けてみたところ、 
  「ギャーーッ!」 
   薬売りはビックリ。 
   なんと部屋の中では田宮が目をむいて、あおむけに倒れていたのです。 
   そして田宮ののどのところに、鬼のうでが立っていました。 
   知らせを聞いた役人が、田宮を調べていいました。 
  「うむ。田宮は鬼のうでに、首をしめられて殺されたものにちがいない」 
   役人たちは鬼のうでを首からはなそうとしましたが、指がしっかり首に食いこんでいて、どうしてもはなす事が出来ません。 
  「しかたがない。そのままつれていけ」 
   田宮は首にうでをくっつけたままで、土葬(どそう→死体を火葬せずに、土に埋めること)されました。 
   埋葬(まいそう)がすっかりおわったあと、役人の一人が線香(せんこう)をあげながら言いました。 
  「どうも、このうでは女の鬼のものらしい」 
   すると、べつの役人が不思議そうにたずねました。 
  「どうして、そんな事がわかるのですか?」 
  「うむ、あの手は鬼のうでにしては、細くてやさしい指をしておった。だが、ずいぶんと田宮にこきつかわれたとみえて、ひどい赤ぎれじゃ。かわいそうな事よ」 
   役人は線香をもう一本とると、今度は鬼のうでのために手をあわせました。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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