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      5月1日の小話 
        
      なむあみだぶつ 
        両国(りょうごく)で、クマの見せ物をやっている、じいさんがおりました。 
 見せ物には、なによりお天気が第一です。 
 それが、このところ、ずっとお天気続き。 
 おかげで、まい日、大入り満員(おおいりまんいん→お客でいっぱいの様子)。 
 じいさんは、すっかりよろこんで、自分も出入り口にあらわれて、 
「さあ、クマだ、クマだ。日本一の大グマだ。江戸では、初めてのおめみえ。そーれ、よってらっしゃい、見てらっしゃい」 
 大声をはりあげて、お客をよんでいました。 
 ところが、このじいさん、とつぜんの病気で床につくと、きゅうに容態(ようたい)がかわって、もはや、息をひきとるばかりとなりました。 
 それなのに、大声をあげて、 
「クマだ、クマだ。日本一の大グマだー!」 
と、どなってばかり。 
 念仏(ねんぶつ)などは、ひとこともとなえません。 
 ああ、こんなことでは、後生(ごしょう→死んでから生まれ変わること)が悪かろうと、ばあさんは、とんとこまりはて、 
「さあ、おまえさん。もうすぐ、おむかえがくるんだよ、なむあみだぶつの一つぐらいは、となえるものじゃ」 
 いくらばあさんが、いってきかせても、じいさんは念仏どころか、 
「クマだ、クマだ」 
と、わめくばかり。 
 まくらもとに集まった、身うちの者も、口ぐちに念仏をすすめますが、じいさんは、 
「クマだ、クマだ」 
 の一点ばりで、どうすることもできません。 
 このようすを見た医者が、 
「どれ、わたしが、念仏をいわせてみせましょう」 
と、じいさんの耳に口をよせて、 
「じいさん、明日は大雨だぞ」 
と、いうと、じいさん、きゅうにしゅーんとなって、 
「ああ、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」 
      おしまい 
                  
         
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