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      5月3日の小話 
        
      この子にも百文 
        天気がたいへんいいので、若いしゅうが五、六人、帆かけ舟(ほかけぶね)にのって沖(おき)ヘ出ました。 
 追い風で、舟は気持ちよく走ります。 
 みんなが、大よろこびで遊んでおりますと、ニューッと、大ダコがあらわれました。 
 タコは、二メートルもある長いうでで、舟にしがみついて中ヘはいろうとします。 
 みんなはおどろいて、なぐりつけようとしましたが、あいにくぼうがありません。 
 海の上のことですから、投げつける石もありません。 
 タコは、そろりそろりと、あがってきます。 
「えーい。しかたがないわ。命にはかえられぬ」 
 ひとりの男が、さいふの中から、百文銭(三千円ほど)を取り出すと、ねらいをさだめて、パッと、タコの顔に投げつけました。 
 うまくあたって、タコはそのまま、海の中ヘもどっていってしまいました。 
「よかった、よかった。だれにも、けががなくて、なにより」 
と、一同がよろこんでいますと、また、さっきのタコが、ニューッと、あらわれました。 
 今度は、小さいタコをつれています。 
 一同、きもをつぶしておりますと、タコは、子どものタコを、舟のほうヘさしあげて、 
「どうか。この子にも、百文やってください」 
      おしまい 
                  
         
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