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4月16日の世界の昔話
パンを踏んだ娘
アンデルセン童話 → アンデルセン童話の詳細
むかしむかし、インゲルという、まずしい家の娘がいました。
インゲルは、うわべばかり気にするような、心もまずしい娘です。
さて、インゲルは年とともに美しくなり、上品な家庭ではたらくようになりました。
ある日、主人がいいました。
「インゲルや、おまえがきてからもう一年になる。お父さんやお母さんにあいたいだろうから、いっておいで」
インゲルは貧乏な家には帰りたくないけれど、美しくなった自分を見せびらかしたくて、出かけていきました。
でも、家の近くでたきぎひろいをしていたお母さんを見た時、
「まあ、きたならしい!」
と、顔をそむけました。
そしてとうとう、インゲルは家に帰りませんでした。
二年目に主人は、またいいました。
「お父さんやお母さんにあいたいだろう。ひまをあげるから、いっておいで」
主人は、こんがりとやけた大きくておいしそうなパンをおみやげに持たせました。
そして、新しい服と靴(くつ)も買ってくれました。
「まあ、すてき。わたしがどんなにきれいになったかを、見せにいきましょう」
と、インゲルが歩いていくと、とちゅうに沼がありました。
沼の水はドロドロにあふれ、道のほうまでぬらしています。
「これでは、せっかくの靴がよごれてしまうわ。えいっ」
インゲルは、ドロ水にパンをなげました。
そして靴をよごさないように、その上に足をのせました。
すると、どうでしょう。
インゲルはパンごと、ずぶっ、ずぶっと、沼の中にひきこまれたのです。
「助けて!」
と、インゲルはさけぼうとしましたが、声が出てきません。
手も足も、こおりついたように動きません。
とうとうインゲルは、沼の底までしずんでいってしまいました。
ふと目をあけると、目のまえで沼女がくさいお酒をつくっていました。
ちょうどそこに遊びにきていた悪魔(あくま)のおばあさんが、インゲルを見るとニタリとわらいました。
「おや、なかなかいい娘じゃないの。もらっていこう」
おばあさんは、心のまずしい人間を集めているのです。
おばあさんの家の長い長い廊下には、目玉ばかりギョロギョロさせた、人間のおき物がずらりとならんでいました。
その列の中に、インゲルもならべられました。
インゲルの美しい服も髪も、今はドロまみれです。
インゲルの美しい顔の上に、気味の悪いヘビやヒキガエルがベッタリとくっついていました。
でもそんなことより、インゲルはおなかがすいてたまりません。
「ああ、このきたないパンでもいいから、食べたいわ」
と、手を足のパンのほうにのばしましたが、どうしてもとどきません。
「おとうさーん! おかあさーん!」
と、よんでも、だれにも聞こえません。
そのころ地上では、インゲルのうわさがひろがっていました。
沼にしずむのを、ウシ飼いが丘の上で見ていたのです。
「バチあたりめ、パンをふむからさ」
「あの娘は、もともとそんな娘だったんだよ」
と、だれもよいことはいいませんでした。
でも、その中でたったひとり、話を聞いてなき出した女の子がいました。
「かわいそうに。悪いことをしたら、あやまってもだめなの? その人がもし、この世にもどってきたら、わたし、お人形箱をあげるわ」
やがてその女の子はおばあさんになり、神さまにめされました。
おばあさんは神さまのまえで、またインゲルのためになきました。
「わたしだって、インゲルのようなまちがいをおかしたかもしれません。どうか、インゲルを助けてあげてください」
そのやさしい心に、天使(てんし)のひとりがホロッと涙をこぼしました。
涙は沼におちていって、インゲルのむねに入りました。
やさしいおばあさんのおかげで、インゲルは地上にもどることが出来たのです。
でも人間ではなく、小鳥のすがたになっていました。
小鳥はおなかのすいた鳥たちに、パンくずをひろってはあたえ、自分は食ベませんでした。
そしてそのパンくずがドロ水になげたパンと同じ量になった時、小鳥はカモメになってとびたちました。
はるか、遠い太陽にむかって。
それから、その鳥を見たものはいません。
おしまい
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