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    福娘童話集 > きょうの日本民話 > 12月の日本民話 > 山ネコのきらいなご幣 
      12月9日の日本民話 
          
          
         
  山ネコのきらいなご幣 
  広島県の民話 → 広島県情報 
       むかしむかし、安芸の国(あきのくに→広島県)に、ヤマイモ掘りの名人といわれるおじいさんがいました。 
   ヤマイモというのは土深くのびていて、上手に掘らないと、すぐに折れてしまうのです。 
   だけど、このおじいさんの手にかかれば、どんなに長いヤマイモも根元まできちんとそろっていて、味も良いのです。 
   おじいさんはヤマイモを求めて、毎日、あちらこちらの山を歩いていました。 
   ある日の事、おじいさんはネコ山と呼ばれている山へ出かけました。 
   なんでもこの山には恐ろしい山ネコがいて、人をおそうというのです。 
   だから山へ近づく者はなく、それだけに、手つかずのヤマイモがたくさんあるはずです。 
  「山ネコがこわくて、山へ行けるか」 
   気の強いおじいさんは、ネコ山に出かけてヤマイモを掘り始めました。 
   思ったとおり、見事なヤマイモがいくらでもあります。 
   でも、夢中で掘りつづけているうちに、いつのまにか夜になってしまいました。 
  「しかたがない。今夜はここで野宿するか」 
   おじいさんは木の下に腰をおろすと、お弁当のにぎり飯にかぶりつきました。 
   夜中になると、山の中はいよいよ静まりかえり、なに一つ聞こえてきません。 
   さすがのおじいさんも気味悪くなり、草の上へ横になっても、なかなか寝つくことができませんでした。 
   それでも、ようやくウトウトしはじめた時、突然なまぐさい風がふいてきて、おじいさんはハッと目を覚ましました。 
   ふと見ると、黒くて大きなものが、おじいさんの上へおおいかぶさるようにして立っているのです。 
   ビックリしてとび起きようとしましたが、おじいさんは金縛り(かなしばり)にあってしまい、ピクリとも動くことが出来ません。 
   よく見てみると、そこに立っているのは毛むくじゃらのけものらしく、金色の二つの目がギラギラと光っています。 
  (はっ、こいつは山ネコだ!) 
  と、気がついたものの、いまさらどうすることも出来ません。 
  (仕方ない。なるようになれ) 
   おじいさんは覚悟を決めて、目を閉じました。 
   生ぐさい息が顔にかかったかと思うと、山ネコはヤスリのようにザラザラとした舌で、おじいさんのからだをなめはじめました。 
   ところが山ネコは、おじいさんのからだをなめまわすばかりで、いっこうに食いつこうとはしません。 
   しばらくすると、山ネコはくやしそうに言いました。 
  「だれかが、じゃまをしやがったな」 
  (・・・?) 
   おじいさんは、何の事かわかりません。 
  「くそっ、どうしても食う事ができない!」 
   山ネコはあきらめたらしく、そのままたちさっていきました。 
  「助かった」 
   金縛りのとけたおじいさんは、ホッとして起きあがりました。 
   気がつくと体中に、ご幣(ごへい→紙を細く切ったもので、神社に祭ってある)の紙がまきついていました。 
  「こりゃ、どっかの神さまが助けてくださったにちがいない」 
   おじいさんは夜が明けると、ヤマイモと一緒にご幣を持って山をおりました。 
   家にもどると、さっそくあちこちの神社をたずね歩いてご幣を見せました。 
   だが、どこの神社も、 
  「これは、うちのものでない」 
  と、言うのです。 
   おじいさんはしかたなく、村の氏神(うじがみ→住む土地の守り神)さまになっている神社へ行きました。 
  「これはわたしの命を助けてくれた神さまのこ幣です。ここであずかってほしい」 
  「ああ、いいですよ。うん? ・・・あれ、これはうちのご幣だ」 
   神主がおどろいて神社の中を調べてみると、やっぱりご幣がなくなっています。 
  「なんと、氏神さまのご幣だったのか」 
   おじいさんは喜んで、氏神さまにご幣を返しました。 
   この神社は山ネコを追い払ったご幣の氏神さまということで、すっかり有名になり、山仕事へ行く人はみんな、この神社へお参りするようになったという事です。 
      おしまい 
                 
         
        
        
       
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