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第 5話
イラスト 「夢宮 愛」 運営サイト 「夢見る小さな部屋」
涙の池
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 「葉月優蘭」 葉月優蘭
アリスが一粒涙をこぼすと、涙は次々とあふれてきました。
「あれ、どうしたのかしら?
涙が、止まらないわ。
こら、アリス!
大きな体をして、めそめそ泣いていたら恥ずかしいわよ」
アリスは自分に言い聞かせましたが、涙は少しも止まりません。
それどころかアリスの涙がどんどんたまって、広間は大きな池になってしまいました。
今の深さは10センチぐらいですが、涙が止まらないので池はどんどん深くなっていきます。
アリスが涙を止めようと目を押さえたり、息を止めたり、鼻をつまんだりしていると、遠くの方からパタパタいう足音が聞こえてきました。
アリスが足音の方を見ると、そこに現れたのはあの白ウサギです。
ウサギはいつの間に着替えたのか、赤いベストの下にはすてきな白いシャツを着て、左手には白いヤギの皮の手ぶくろを持ち、もう片方の手には大きなせんすを持っていました。
ウサギは大あわてで走りながら、ぶつぶつ言っています。
「ああ、急がないと。女王さまをお待たせしたら、きっと怒られるだろうなあ」
アリスはウサギが近くまで来ると、おそるおそる低い声で呼びかけました。
本当は普通の声で呼びかけたつもりですが、体が大きくなったアリスの声は男の人のように低い声でした。
「あのう、ウサギさん。すみませんけど」
「うひょ!」
アリスの声にびっくりしたウサギは、持っていた白い手ぶくろとせんすをその場に落として、いちもくさんに暗がりの中へ消えてしまいました。
「ああ、行っちゃった」
アリスは、ウサギが落としていったせんすと手ぶくろを拾いました。
広間が暑くなってきたので、アリスはせんすで自分をあおぎながらおしゃべりをしました。
「今日は、変な事ばかりね。
昨日までは、なんでもなかったのに。
あたし、ずっとこの広間にいるのかな?
大人になっても、ずっと、ずっと。
ここにいれば勉強をしなくてもいいけど、お友だちにも会えないわ。
せめて、ダイナがいてくれたらな」
おしゃべりをしていたアリスは、ふと自分の手を見てびっくりしました。
おしゃベりをしているうちに、いつの間にかウサギの小さな白い手ぶくろの片方を手にはめていたのです。
「どうして、この手ぶくろがはめられたのかしら?
手ぶくろは、とっても小さかったのに。
手ぶくろが、大きくなったのかしら?
・・・いいえ、そうじゃなくて、あたしがまた小さくなっているんだわ」
アリスは立ち上がってテーブルのそばに行くと、テーブルと背比べをしました。
アリスの体はテーブルよりも小さくなっているので、アリスの身長は60センチぐらいしかありません。
しかも、まだまだ小さくなっていくのです。
アリスはすぐに、小さくなっていくのはせんすをあおいでいるせいだとわかりました。
「きゃっ!」
アリスはあわてて、せんすを放り投げました。
するとアリスの体は、小さくなるのが止まりました。
「あぶないとこだったわ。あのままあおいでいたら、消えてなくなっていたかも。・・・きゃっ!」
安心したアリスは、うっかり足を滑らせて塩からい水の中にもぐってしまいました。
ザブン!
はじめアリスは、海の中に落っこちたんだと思いました。
でも本当は、自分が流した涙の池に落ち込んだのだとわかりました。
「こんなことなら、あんなに泣くんじゃなかったわ」
アリスは涙の池を泳ぎながら、出口を探しました。
「自分の涙を泳ぐなんて、ずいぶんと変わった経験だわ。
家に帰ったら、友だちに自慢しなくっちゃ。
でも今日は、本当に変わったことばかり。
・・・友だち、信じてくれるかな?」
その時、池の向こうで何か大きな物がパシャパシャと泳いでいるのが見えました。
おわり
続きは第6話、「ネズミはネコが大きらい」
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