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第 11話
イラスト 「夢宮 愛」 運営サイト 「夢見る小さな部屋」
チェシャネコ
大きくなるキノコと小さくなるキノコを交互になめながら、ちょうどいい大きさになったアリスは森の中を進みました。
すると2、3メートル先の木の枝に、ピンクと紫のしまもようのネコが眠っていました。
「あら、ネコだわ。ちょっと大きいけど、ダイナのお友だちになるかしら?」
ネコ好きのアリスはしまもようのネコに近づくと、ネコに声をかけました。
「ネコちゃん。あなた、わたしの言葉がわかる? わかるなら、こっちを向いて」
ウサギやネズミなら、『ウサギさん』『ネズミさん』と言うのに、ネコだと『ネコちゃん』と呼びます。
するとネコはアリスの方を向いて、大きな口を開けるとニヤリと笑いました。
その笑った口の中には、数え切れないほどたくさんの歯があります。
それを見てアリスは、
(あの口でかまれたら、ネズミだけでなく人間でもやっつけられるわ)
と、思いました。
そして用心しながら、ネコにたずねました。
「よかった。
あなたも、人間の言葉が分かるのね。
ねえネコちゃん、これからあたしはどっちへ行ったらいいか教えてくださらない?」
するとネコは、いっそう大きく口を開けて言いました。
「わたしを呼ぶのなら、チェシャネコと呼んでくれないか?」
「チェシャネコ?」
「そう、チェシャネコとは、いつもニヤニヤ笑っている人をさす言葉さ」
そう言ってチェシャネコは、また大きな口を開けて笑いました。
確かに、このネコにはぴったりの名前です。
「わかったわ、チェシャネコちゃん。
それで、あたしはどっちへ行ったらいいか、教えてくださらない?」
「そりゃあ、あんたが行きたいと思うところしだいだよ。どこへ行きたいんだい?」
「どこって、べつに、どこって事もないけど」
「それなら、どこへ行こうとかまわんじゃないか」
「ええ、どこかに行きつきさえすればね」
「どこへ行っても、どこかに行きつくに決まってるさ。どんどん歩いて行きさえすればね」
確かにその通りだと、アリスは思いました。
そこで今度は、別の事を聞きました。
「このあたりは、どういう人が住んでいるんですか?」
「それならあっちへ行くと」
ネコは尻尾で、右を指しました。
「ぼうし屋が住んでいるよ」
今度は尻尾で、左を指しました。
「それからこっちへ行くと、三月ウサギが住んでいるよ。まあ、あんたの好きな方をたずねてごらん。もっとも、どっちも気ちがいだがね」
「そんな頭の変な人のところへなんか、行きたくないわ」
「しょうがないよ。
何しろここにいるは、みんな気ちがいなんだからね。
わたしも気ちがいだし、あんたも気ちがいだよ」
「あたしは違うわ。どうして、そう思うのよ?」
「決まっているだろう。気ちがいでなければ、こんなところに来るわけがないさ」
そんな事では何の証拠にもならないと思いましたが、アリスは言葉を続けました。
「それじゃ、あなたは自分の頭がおかしいと、どうしておもうの? 今まで出会った中で、あなたが一番まともに思うけど?」
「まず第一に、犬は気ちがいじゃない。それは、あんたもみとめるだろう?」
「そうね。犬は頭がいいわ」
「さて、その頭のいい犬は怒った時にはうなるし、うれしい時には尻尾をふる。
ところがわたしはうれしい時にうなるし、怒った時には尻尾をふる。
だからわたしは、気ちがいなんだ」
「あら、ネコはうなるんじゃなくて、のどをゴロゴロと鳴らすのよ。ダイナがそうだもの」
「なんとでも、好きに言うがいいさ。それよりあんたは、女王さまには会ったかい?」
「いいえ。会っていないわ」
「そうかい、なら教えておこう。女王さまには気をつけるんだよ。何でも自分の思い通りになると思っているからね」
チェシャネコはそう言って、煙のように姿を消しました。
おわり
続きは第12話、「気ちがいのお茶会」
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