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第 18話
イラスト 「夢宮 愛」 運営サイト 「夢見る小さな部屋」
証人
白ウサギはトランペットを3回吹き鳴らすと、大きな声で言いました。
「証人、前に出なさい」
現れた証人は、ぼうし屋でした。
ぼうし屋は片手にお茶の茶わん、片手にバターをぬったパンを持って入ってきました。
「王さま、こんなかっこうを、どうかおゆるしください。じつは呼びにこられましたとき、まだお茶をすましていなかったものですから」
王さまは、ぼうし屋に命じました。
「そのぼうしを、ぬげ」
するとぼうし屋が、王さまに言いました。
「これは、わたくしのではございません」
「では、誰のぼうしだ?」
「わたくしは、売るためにぼうしを持っておるのでございます。自分の物は、一つもありません。わたくしは、ぼうし屋でございます」
ぼうし屋は、そう言い訳をしました。
そんなぼうし屋を、女王がメガネをかけてにらみつけました。
ぼうし屋はまっ青になって、そわそわしました。
「とにかく、この娘が有罪である証拠をあげるんだ。インチキ勝負をして、わたしを困らせたとね。さもないと、お前の首をはねてしまうよ」
証拠をあげろと言われても、クロッケー遊びの時にぼうし屋はいなかったので、証拠をあげる事は出来ません。
困ったぼうし屋はおろおろして、バターをぬったパンではなくて、お茶わんの方をパクリとかぶりつきました。
そのときアリスは、体がムズムズするのを感じました。
この世界に来て、何度も経験した感じです。
「体が、また大きくなるの? 何も食べていないのに?」
ぼうし屋は、くつがぬげてしまうほど、ガタガタとふるえ出しました。
「さあ、証拠をあげるんだ」
王さまも、ぼうし屋に怒鳴りました。
「さもないと、お前を死刑にしてしまうぞ」
「わたくしは、あわれなものでございます」
ぼうし屋は、泣き出しそうな声で言いました。
それを見ていたアリスは、ぼうし屋がかわいそうになって言いました。
「もう、ぼうし屋さんが困っているわ! だいたいこんなばかばかしい裁判なんて、続けるだけ無駄よ!」
そしてアリスは、机を両手で叩きました。
いえ、叩こうとしたのですが、机が小さくて叩けませんでした。
「机が小さくなったわ。・・・いいえ、あたしが大きくなったのよ」
おわり
続きは第19話、「アリスのはんげき」
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