|
|
第 8話
イラスト 「夢宮 愛」 運営サイト 「夢見る小さな部屋」
火をつけろ
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 「葉月優蘭」 葉月優蘭
「メアリアン。メアリアン。早く手ぶくろを持って来ないか。いったい、何をしているんだ?」
その声は、パタパタと小さな足音をさせて階段をあがってきました。
声の主は、あの白ウサギです。
ウサギはアリスのいる部屋の前に来ると、ドアを開けようとしました。
でもドアは、内側へ開くようになっています。
内側では大きくなったアリスのひじがドアを押しているので、いくら開けようとしてもびくともしません。
「だめだ、どうしても入れないぞ」
ウサギは一度外へ出ると、大声で何かを呼びました。
「パット! パット! どこにいるんだ?」
するとかきねの向こうから、庭師のかっこうをしたトカゲが現れました。
「だんなさま、そんな大声を出さなくても、ここにいますよ。庭で、リンゴを掘っていたんですよ」
「そうか、それはご苦労さん。ああそれより、家の中に何かがいるんだが、ドアが開かないんだ。手伝ってくれ」
「家の中って、だんなさま、あの窓から出ている腕のことですか?」
「窓から腕? ・・・ああっ! あれは何だ?! 窓から大きな腕が出ているぞ!」
ウサギはようやく、窓から出ているアリスの腕に気づきました。
「なっ、何だってあんな物が、窓から出ているんだ!」
「あっしに言われても、知りませんよ」
「そうか、まあいい。それよりも、どうすればあいつを追い出せるんだ?」
「そうですね。家に火をつければ、びっくりして逃げ出すんじゃないですか?」
「家に火をつけるだと!? わたしの家だからといって、そんな簡単に言うな」
「じゃあ、どうします? ほかに方法がありますか?」
「うーん。仕方ない、家に火をつけて追い出そう」
それを聞いたアリスは、びっくりです。
「じょうだんでしょう! そんなことをされたら、あたし焼け死んでしまうわ! えーと、何かないかしら」
アリスがせまい部屋を見渡すと、床にとても小さなクッキーが落ちていました。
まあ、今の大きなアリスから見れば、どんな食べ物も小さく見えるのですが。
「このクッキーを食べたら、きっと体の大きさが変わるわ。
小さくなったら家から出られるし、たとえ大きくなっても家がこわれて出られるはずよ」
そこでアリスは床に落ちているクッキーをあごで近くに寄せると、ペロリと飲み込みました。
するとうれしい事に、アリスの体がすぐに縮み始めたのです。
そしてドアから出られるくらいの大きさになると、アリスはすぐに家から飛び出しました。
外に出ると白ウサギとトカゲの庭師が、家に火をつけようとしています。
飛び出したアリスには、まだ気づいていません。
アリスはその場に手ぶくろとせんすを置くと、深い森の中へと逃げ込みました。
おわり
続きは第9話、「水キセルの毛虫」
|
|
|