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4月13日の日本民話

一人ぼっちのコウモリ

一人ぼっちのコウモリ
京都府の民話京都府情報

 むかしむかし、森に住むけものたちと鳥たちがけんかをして、みんなで戦う事になりました。
「この森から一羽残らずず、鳥どもを追い出してやる!」
 けものたちの大将のキツネが言いました。
 キツネのもとに、タヌキやサルなど、空を飛べないけものたちが次々と集まってきました。
 そこへ、コウモリがパタパタパタとやって来ました。
「あの、ぼくも仲間に入れてください」
 するとタヌキが、コウモリを見て言いました。
「何だお前は! 羽のある奴は鳥の仲間だろう、あっちへ行け!」
「・・・でも、体はけものなんです」
「うるさい! 早く行かないと、お前からやっつけてやるぞ!」
「・・・・・・」
 コウモリは仕方なく、どこかへ飛んで行きました。
 一方、木の上では鳥たちが集まって、だれを大将にするかを相談しました。
 ハチやハエなど、羽のある虫たちも、鳥の味方としてやってきました。
「タカが一番強そうだから、タカに大将になってもらおう」
 カラスが言いました。
 でも、スズメが、
「いいや、戦いは強いだけでは勝てない。キツネは利口だぞ。だからこっちも、それに負けないぐらい、利口なものでなくちゃ」
と、言ったので、みんなは相談して、利口ですばしっこいハチを大将に選びました。
 鳥たちの大将に選ばれたハチは、さっそく相手の様子を探りに出かけました。
 地上では、キツネを中心にして、けものたちが戦いのやり方を話し合っています。
 ハチはそっと近くにより、木の葉っぱの裏に隠れました。
 キツネが、言いました。
「いいか、わしがしっぽをぴーんと立てたら、どんどん前へ進め。そしてしっぽを下げたら、後へ下がれ」
 それを聞いて、ハチはニヤリと笑いました。
(なるほど。これはいい事を聞いたぞ)
 ハチはすぐに鳥たちのところへ戻ると、みんなに言いました。
「けものたちが後へ下がり始めたら、一気に攻めてくれ」
 さて、いよいよ戦いの始まりです。
 大きな木の枝に、鳥たちがずらりと並びました。
 それを見て、キツネがさっとしっぽを立てました。
「それ、進め! 木から鳥をゆり落とせ!」
 けものたちがいっせいに、駆け出しました。
 その時、ハチはさっと飛び立ちました。
 でも体が小さいので、けものたちはだれも気がつきません。
 ハチはキツネのそばに来ると、ぴーんと立てたしっぽに、
「えいっ」
と、針を突き刺しました。
「いたい!」
 キツネは飛び上がりましたが、それでも必死にしっぽを立てて、
「進め、進め」
と、叫びました。
 でも、ハチが何度もしっぽを刺すので、そのうちに痛くてがまん出来なくなり、キツネは思わず、しっぽを下げました。
「おやっ?」
 それを見たけものたちが、いっせいに立ち止まりました。
「後へ下がるんだ!」
 サルが言いました。
「どうして、下がるんだよ。こっちが優勢なのに」
 タヌキが言いました。
「早くしろ。キツネ大将の命令だ」
 そこでみんなは、慌てて後戻りを始めました。
 それを見て、キツネがびっくりしました。
 こんなところで後に下がったら、せっかく優勢な戦いが負けてしまいます。
「何をしてる! 進め、進むんだ!」
 キツネがいくら叫んでも、しっぽが下がったままなので、けものたちは、どんどん後ろに向かって走りました。
「今だ!」
 体勢を崩したけものたちに、鳥たちが一斉攻撃を開始しました。
「た、助けてくれえ〜!」
 サルもタヌキもみんな必死になって、森の奥へ奥へと逃げていきます。
 けれど、しっぽが痛くて動けないキツネは、とうとう鳥たちに捕まってしまいました。
「みんな、敵の大将を捕まえたぞ!」
 カラスが叫びました。
 すると鳥たちが、ぐるりとキツネを取り囲みました。
「どうだ。これでもわしらを森から追い出すと言うのか?」
 ハチが尋ねました。
 でもキツネは、
「ああ、必ず追い出してやる」
と、いばりながら言って、何度も森の奥を見ました。
 大将のキツネがいない事に気がついて、もうすぐみんなが戻ってくるでしょう。
 そうなれば、鳥なんかいちころです。
 でも、誰もやってきません。
 キツネは、だんだんに心細くなってきました。
 こうなれば、もうあやまるより仕方がありません。
「わかった。わしらの負けだ。もう二度と鳥たちを追い出すような事はしないから、かんべんしてくれ」
 キツネは、鳥たちの前に両手をついてあやまりました。
 こうしてこの戦いは、鳥たちの勝ちになりました。
 負けたキツネは、まだ痛みのあるしっぽを引きずりながら、すごすごと森の奥へ戻っていきました。
「さあ、みんなでお祝いだ。ごちそうを食べよう」
 ハチが、うれしそうに言うと、他の鳥たちがごちそうを並べ始めました。
 するとそこへ、今まで戦いを遠くから見ていたコウモリがやって来たのです。
「あの、ぼくもお祝いに参加させてください」
 するとタカが、怖い顔でコウモリをにらみつけて言いました。
「なんじゃ、今ごろやってきて! お前は鳥のくせに、わしらの味方もしないで!」
 するとコウモリが、申し訳なさそうに言いました。
「だってぼくは、羽があっても体はけものだから、今までどっちの味方をしたらいいのかわからなくて」
「そうか、でも体がけものなら、お前はけものの仲間だろう」
「うん、たぶん」
「なら、あっちへ行け!」
 そう言って、コウモリは鳥たちからも追い出されてしまいました。
 そして今でもコウモリは、けものの仲間にも鳥の仲間にも入れず、一人ぼっちでいるのです。

おしまい

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