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8月30日の世界の昔話

三羽のカラス

三羽のカラス
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 むかしむかし、とても心のやさしい少女がいました。
 この少女は、お父さんが笑ったのを、一度も見たことがありません。
 いつも考え込んだり、涙を流してばかりいるのです。
 少女は不思議に思って、ある日、お父さんに聞いてみました。
「お父さん、いつも、何がそんなに心配なの?」
 すると、お父さんは、
「じつは、お前には三人の兄さんがいるのだが、ある日、わたしは三人を叱りつけて、そしとき呪いの魔法で三人をカラスにしてしまったんだ。けれどもわたしには、その魔法をとくことが出来ないのだよ」
 少女はこの話を聞いてからというもの、なんとかして兄さんたちを助けてあげたいと思っていました。
 そしてとうとう、少女は兄さんたちを助けるために、そっと家を出ていったのです。
 日が暮れる前に、少女は森にやってきました。
 この森には、少女と仲良しの妖精(ようせい)が住んでいます。
 少女は妖精の家に泊めてもらうと、カラスになった兄さんたちの事を話しました。
 すると妖精は、
「野原を半分ほど行くと、美しい三本の木が立っているから、そこへ行ってごらん」
と、あくる朝、少女を森のはずれまで送ってくれました。
 妖精と別れた少女が野原を進むと、妖精の言った通り、野原のまん中には三本の美しい木が立っていました。
 そのどの木の上にも、カラスが一羽ずつとまっていました。
 少女が近づいていくと、三羽のカラスは木からまいおりてきて、少女の肩や手にとまりました。
 そしてうれしそうに、
「ああ、かわいい妹よ、ぼくたちを助けに来てくれたんだね」
と、いいました。
「はい。あなた方が、兄さんなのね。でも、どうやったら魔法がとけるのでしょう」
「ぼくたちを救う方法は、たった一つしかない。でも、やさしい妹に苦しい思いをさせるわけにはいかないよ」
「その方法を教えてください。どんなに苦しくても、あたしは平気です」
「かわいい妹よ、ありがとう。その方法は、お前はこれからの三年間、一言も口をきいてはならないことなんだ。もし、たった一言でも口をきけば、ぼくたちは死ぬまで、カラスのままでいなければならないんだ」
「その上、もう二度と、ぼくたちに会うことも出来なくなるんだ」
「兄さんたちのためですもの。あたし、これからは一言も口をききません」
 少女は約束すると、家へ戻りました。

 あくる朝、少女はまた、妖精の住んでいる森へいきました。
 けれども、この前泊めてもらった家は、どこにもありません。
 そのかわり、立派なお城がたっていました。
 そのとき、お城から狩りにいく人たちが出てきました。
 先頭には、お城の王子がいました。
 王子は少女の姿を見ると、馬を近づけて、
「あなたは、どこの国からきたのですか? ここで、何をしているんですか?」
と、たずねました。
 けれども妹は、口をきくわけにはいきません。
「・・・・・・」
 ただ黙って、王子におじぎをしました。
「あなたは、口をきくことができないのですね。でもそのかわりに、神さまはあなたに美しさをお与えになった。よければ、わたしと一緒にいらっしゃい。きっと、良いことがありますから」
 少女は、だまったまま、
(はい。喜んでまいります)
と、身ぶりをしてみせました。
 こうして王子は、少女をお母さんのおきさきのところへ連れて行きました。
「・・・・・・」
 少女は黙って、おじぎをしました。
 すると、おきさきは、
「この少女を、どこから連れてきたのですか?」
と、王子にたずねました。
 王子は、森の中で出会った事を話しました。
 すると、おきさきが言いました。
「口がきけないようですね。こんな娘を、どうして連れてきたのですか? ・・・ああ、城の女中(じょちゅう)にするのですね。そういえば、素直に働きそうだこと」
「いいえ、お母さま。わたしのお嫁さんにするために連れてきたのです。お母さま、この少女をよくごらんください。一言も口はきけませんが、こんなに美しいのです。すばらしい娘ではありませんか」
「そう、・・・・・・」
 おきさきは、黙ってしまいましたが、けれども心の中で、その美しい少女を憎らしく思いました。
 次の日、王子は少女と結婚式をあげました。
 結婚式が終わるとすぐに、皇帝(こうてい)からお使いが来て、王子は戦争に行くことになりました。
 王子は召使いをよんで、若いおきさきのめんどうをよくみるようにと言いつけてから出かけました。
 ところが王子がお城を出るとすぐに、お母さんのおきさきは召使いにお金をやって、お嫁さんの若いおきさきをいじめる相談をしたのです。
 それから、一年がたちました。
 若いおきさきは、とても可愛らしい男の子をうみました。
 でも、お母さんのおきさきは召使いに言いつけて、男の子を森へ捨てさせたのです。
 まもなく王子が、戦争の合間に帰ってきました。
 するとおきさきは、
「お前のお嫁さんは魔女ですよ。あの娘は、死んだ子どもをうみました」
と、言ったのです。
「そんな馬鹿な」
 王子は召使いを呼んで、さっきの事をたずねました。
 すると召使いは、
「はい、その通りでございます。赤ちゃんは、森の中に埋めておきました」
と、答えました。
(そうか。でも、死んだ子どもを産んだからといって、おきさきが魔女とは限らない)
 そう思った王子は、また戦争に出かけました。
 そして、また一年が過ぎました。
 若いおきさきは、二人目の子どもを産みました。
 でもまた召使いが赤ん坊を森へ連れて行って、捨ててしまったのです。
 王子が帰ってくると、お母さんのおきさきは、
「あなたのお嫁さんは、本当に魔女ですよ。今度は悪魔の子どもを産みました。とても人間の子ではありません。何しろ全身に、毛がモジャモジャ生えていたのですから」
と、言い、召使いも、
「はい、まるで黒犬のようでした。わたしが森に埋めてまいりました」
と、答えました。
(そうか。しかし、産まれながら毛深い赤ちゃんもいると聞く、おきさきが魔女とは限らない)
 そう思った王子は、また戦争に行きました。
 そしてまた、一年が過ぎました。
 若いおきさきは、三人目の子どもを産みました。
 そして赤ん坊は、また召使いが森へ連れて行って捨ててきました。
 ようやく戦争が終わって、王子が帰ってきました。
 するとお母さんのおきさきは、
「あなたのお嫁さんを、生かしておいてはいけません。三番目の子どもは、おそろしい化け物でしたよ」
と、言い、召使いも、
「はい、背中にコウモリのような羽が生えていて、窓から森へ飛んで行ってしまいました」
と、答えました。
 それを聞くと王子は、ついに二人の言葉を信じて言いました。
「若いおきさきは魔女だから、ろうやに入れろ!」
 次の日、若いおきさきは、火あぶりにされることになりました。
 お城の庭に、まきが高くつまれて、いよいよ火をつけるばかりです。
 王子は、みんなを見まわしていいました。
「この若い魔女を火あぶりにする。だれも、文句はないか?」
 王子は、出来れば誰かに止めてほしいと思ったのですが、だれも何も言いません。
(・・・そうか。では仕方がない。せめて、わたしの手で)
 王子がまきに火を付けようとした、その時、ふいに遠くから角笛(つのぶえ)の音が聞こえてきました。
 見ると、雪のように白いウマにまたがった三人の騎士が、風よりも早くお城めがけてかけてきます。
 三人の騎士は銀のよろいを着て、カラスのワッペンをつけた盾を持っています。
 そしてどの騎士も、美しい男の子を抱いていました。
「ああ、間に合ってよかった。やさしい妹よ。ぼくたちだよ。お前の兄さんだよ。たったいま、約束の三年が過ぎたんだ。お前のおかげで、わたしたちは元の姿に戻る事が出来た。お礼をいうよ」
 そして抱いていた男の子を見せて、
「この三人の子どもは、お前の息子たちだ。森へ捨てられていたのを、お前の友だちの妖精が大事に育ててくれたのだよ」
と、三人の騎士は、腕にかかえている子どもを妹にわたしました。
 お城の庭では、人々が喜びの声をあげました。
 本当の事を知った王子は、若いおきさきに疑った事をわびると、若いおきさきと子どもたちを力強く抱きしめました。
 そして意地の悪いお母さんのおきさきと、赤ん坊を森に捨てた召使いは、だれにも気づかれないうちにと、こっそりお城を出ていき、二度と帰ってはきませんでした。

おしまい

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