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福娘童話集 > きょうの日本昔話 > 1月の日本昔話 > 乙姫様のくれたネコ

1月25日の日本の昔話

乙姫様のくれたネコ

乙姫様のくれたネコ
龍宮仙女送个貓仔

日本語 ・客家語 ・日本語&客家語

客家語 : 鄧文政(ten33 vun55 zhin11)

 むかしむかし、三人の娘を持ったお百姓(ひゃくしょう)さんがいました。
 頭擺頭擺,一個有三個妹仔个農民。

  三人とも、とっくに嫁いでいたのですが、どういうわけか一番上の娘だけはひどい貧乏暮らしで、その日の食べ物もあるかないかの有様です。
 三個都嫁京畿外个人,毋知麼个原因斯最大个妹仔日仔過到當苦,連當日愛食个東西有抑無都毋知。

  お百姓さんは毎年暮れになると、三人の娘の婿を呼ぶ事にしていました。
 農民逐年到年尾都會請三个妹仔摎婿郎來屋下。

  妹二人の婿は金があるので、お土産に酒やら炭俵(すみだわら)をたくさん持って来ます。
 較有錢該兩个婿郎會帶等當多酒摎火炭做等路去。

  お百姓さんも、おかみさんも大喜びで、
 丈人老還過丈人哀非常歡喜,講:

「よう来た、よう来た。さあ、遠慮無く入りなさい」と、言いながら、ごちそうを出してもてなしました。
「歡迎,歡迎!請毋使客氣、落來坐!」又當豐沛來招待佢兜。

  ところが姉婿は金がないので、いつも山から取って来たしばの束をかついで行き、
 毋過大婿郎因為無錢,逐擺就㧡等山頂撿个樵來,講:

「たきつけにでも、して下さい」と、言いました。
「這樵分你起火用!」

(ふん。こんな物しか、持って来れらないのか)
(fumu!斯拿這兜仔東西定定係無?)

  お百姓さんもおかみさんも馬鹿して、姉婿にはただの一度もごちそうを出した事がありません。
 丈人老摎丈人哀看佢毋起,毋識拿豐沛个料理分佢食,連一擺都無。

  さて、今年も年の暮れになり、三人の婿たちがお百姓さんの家へ呼ばれる事になりました。
 今年年尾又請三个婿郎來屋下。

  相変わらず、しばの束しか持っていけない姉婿は、家を出たものの、どうしてもお百姓さんの所へ行く気がしません。
 摎頭擺共樣㧡等樵去个大婿郎,出門以後仰般都無想愛去外家。

(どうせ持って行って馬鹿にされるだけだ。それなら、乙姫(おとひめ)さまに差し上げた方がましだ)
(反正去乜分人看毋起,毋當送分龍宮仙女較贏。)

  姉婿は海辺に行くと、
「竜宮(りゅうぐう)の乙姫さま、おらのお歳暮(おせいぼ→年の終わりに贈る贈り物)にもらって下さい」と、言って、海の中にしばの束を投げ込みました。
 大婿郎就向海脣行等去,到海脣摎大海講:
「龍宮个仙女,這係年尾个禮物請你領受。」講煞就將樵把擲落海肚去。

「・・・さあ、家に帰るとするか」
「...好咧,轉來去屋下好哪。」

  姉婿がそのまま家に帰ろうとすると、ふいに海の中から美しい女が出て来て言いました。
 大婿郎想愛轉屋下个時節,無想到海肚走出一個當靚个細妹仔來,摎佢講:

「ただいまは、結構(けっこう)な物をありがとうございました。乙姫さまがお礼をしたいそうですから、わたしと一緒に来て下さい」
「頭下送𠊎恁好个東西,承蒙你。龍宮仙女想愛送禮物分你,請你摎𠊎共下來去。」

  姉婿は、ビックリです。
 大細郎著下驚。

「と、とんでもない。おらあ、お礼なんかいらねえ。それに泳ぐ事も出来んし」
「無,無麼个。𠊎無愛麽个禮物,另外𠊎抑毋會泅水。」

「大丈夫ですよ。わたしがおんぶしていきますから、目をつむっていて下さいな。さあ、遠慮せずに、わたしの背中に」
「無相干,𠊎會背你來去,請你目珠眨起來,毋使客氣,覆在𠊎背囊頂。」

  女が親切に進めるので、姉婿は仕方なく女におぶさって目をつむりました。
 因為細妹仔非常親切,大婿郎無法度,高不將目珠眨等分細妹仔背。

  その途端、気が遠くなって何が何だかわからなくなりました。
 該下像分魍神牽著樣,麽个就毋知。

「さあ、お疲れさま。着きましたよ」
「到咧,辛苦你哦!」

 言われて目を開けると、何と立派な座敷(ざしき)に座っているではありませんか。
 佢就慢慢擘開目珠,仰會坐在恁派頭个人客間呢?

 目の前には山の様なごちそうがあり、美しい音楽まで聞こえてきます。
 眼前係像山恁高个澎湃个料理,又有恁好聽个音樂好聽。

「ささっ、どんどん召しあがれ」
「慢慢食!」

  女のついでくれるお酒を飲んだ姉婿は、思わずうなりました。
 啉了細妹仔渟分佢个洒,毋多知嗄細聲呻起來。

  こんなうまい酒は、今まで飲んだ事がありません。
 恁好食个酒從生人吂識食過。

  それにごちそうも信じられないほどのうまさで、まるで夢を見ている気分です。
 該兜料理分人毋敢相信,世間有恁何食个東西,斯像人發夢樣。

  姉婿がウットリしていると、女が小声で言いました。
 大細郎嗄呆忒,一直到細妹仔細聲同佢講:

「乙姫さまが何かあげようと言われたら、『何もいりませんが、ネコを一匹下さい』と、言いなさい」
「龍宮仙女若係問你想愛佢送麽个東西分你个時節,請你應講:『麽个都毋使,請你送𠊎一條猫仔就好。』」

(でも、貧乏だからネコなんかもらっても、育てられるかな?)
(毋過自家恁苦,討到一條猫仔敢會有辦法畜?)

  姉婿が考えていたら、乙姫さまが天女(てんにょ)の様な羽衣を着た女たちを引き連れて座敷にやって来ました。
 大細郎當當在該考慮个時節,龍宮仙女在一群著羽毛衫个仙女帶領來到人客間。

「贈り物をありがとうございます。お礼を差し上げますので、何でも欲しい物を言いなさい。もし望みの物がなければ、玉手箱(たまてばこ)などは、・・・」
「承蒙你送𠊎恁多禮物,所以愛回你禮物作為答謝,有麼个想愛个東西麽?請你摎𠊎講,假使係無个時節,珠寶盒...」

(玉手箱なんて、とんでもない!)
(珠寶盒,毋合理!)

  姉婿は、大きな声で言いました。
 大婿郎大聲講:

「ネコを一匹下さい!」
「請送𠊎一條猫仔!」

「まあ、ネコをくれですって?
 ネコは、竜宮に一匹しかいない宝物。
「啊!愛一條猫仔?貓仔在龍宮肚斯正一條定定,係寶呢!

・・・でも、あなたの望みとあらば仕方ありません。
 いいですか。
...若係你愛,高不而將送分你好咧。

  竜宮のネコは一日にアズキ一合を食べさせると、一升(いっしょう→一合の十倍で約一・八リットル)の小判を生みます。
 龍宮个猫仔一日食一合紅豆,屙一升(一合个十倍大約公升。)个金幣出來。

  どうぞ、いつまでも可愛がって下さいね」
 請,愛永久惜佢。」

  乙姫さまはそう言って、可愛いネコを一匹くれました。
 龍宮仙女講煞,斯將該條得人惜个猫仔送分佢。

  姉婿はネコを抱いて、さっきの女の背中につかまりました。
 大婿郎揇等猫仔,覆在頭下該細妹仔个背囊。

  目をつむると気が遠くなり、目が覚めた時には元の海辺に立っていて、一匹のネコを抱いていました。
 目珠眨等,人昏昏麼个就無知,等佢醒个時節既經企在原來該海脣,揇等猫仔。

  姉婿は大喜びで家に戻ると嫁さんに訳を話し、とっておきのアズキを一合食べさせました。
 するとネコのお尻から、
 大細郎非常个歡喜轉去屋下,摎其餔娘講事情个經過,拿一合紅豆分佢食,過後猫仔个屎胐就

♪チャリーン ♪チャリーン と、小判がドンドン飛び出して来て、見る見るうちに一升分ほどになりました。
♪ diang ♪ diang響,屙出金幣出來,看等斯有一升了。

  姉婿はその小判で大きな魚やら高価な着物を買い込み、それを持ってお百姓さんの家へと行きました。
 大婿郎用該兜錢去買大尾魚仔摎當貴个衫褲,拿去厥丈人老屋下。

「どうして、こんな高価なものを?」
「仰會買恁貴个東西呢?」

  お百姓さんもおかみさんも飛び上がるほど喜び、姉婿に初めて酒やごちそうをふるまいました。
 丈人老摎丈人哀暢到跳起來,第一擺拿豐沛个料理請佢食。

「それにしても、しばの束しか持って来られないお前が、どうやって金持ちになった?」
「你頭過斯有才調㧡樵把來定定,這下仰會變恁發呢?」

  二人が聞くので、姉婿は乙姫さまからネコをもらった事を正直に話しました。
 二老問起這件事情,大婿郎摎龍宮仙女送一條猫仔个事情老老實實講分佢聽。

「何と、竜宮のネコだって!」
「麽个!得到龍宮个猫仔!」

  欲の深いおかみさんは、急にそのネコが欲しくなりました。
 貪心个丈人哀,想愛遽遽得到該條猫仔。

「なあ、すまんがわしらに、そのネコを貸してくれ」
「噯,失禮,該條猫仔借𠊎!」

 そう言って二人は、姉婿と一緒に家までついて来ます。
 講了後兩儕就跈等大細郎轉去屋下。

  姉婿も嫁さんも、仕方なく、
 大婿郎摎妹仔無法度,

「それなら、ほんの二、三日だけですよ。それから一日に一合のアズキを、食わせるようにして下さい」と、言って、ネコを渡しました。
 摎二老講:「若係一定愛借,無該斯借你二、三日好啦,毋過一日斯做得分佢食一合紅豆。」
 就摎猫仔交分佢。

(しめしめ、このネコさえいれば、大金持ちになれるぞ)
(該載,有這條猫仔就會變有錢人了。)

  二人は家に戻ると、さっそくアズキを一合食べさせようとしましたが、
 二老轉到屋下後,想愛遽遽拿一合紅豆分猫仔食,

(待てよ、一合で一升の小判を生むなら、五合食わせれば五升の小判を生むわけだ)
(等下,假使食一合屙一升金幣,該分佢食五合該毋係就會屙五升个金幣了!)

  そこで嫌がるネコに無理矢理五合のアズキを食べさせると、ネコはとっても臭いフンを山の様に出して、そのまま死んでしまいました。
 所以強逼猫仔食五合紅豆,猫仔就屙當臭个屎,像一座山恁高,過後就死忒了。

「なんだ、なんだ。小判を生むなんて、とんでもない。山の様なフンなんかしやがって!」
「麽个東西?麽个東西?屙金幣無半滴,屙臭屎像山恁高。」

  お百姓さんもおかみさんもカンカンに怒って、姉婿の家へ怒鳴り込んで来ました。
 丈人老摎丈人哀膦火著,走去大婿郎屋下大聲駡佢:

「よくも、わしらを騙したな」
「還敢哦,連𠊎兩儕你也敢騙!」

「そんな。騙すなんて、とんでもない」
「無該種事情,無可能騙你。」

  姉婿は、すぐにお百姓さんの家へ行って、死んだネコをもらい受けて来ました。
 大婿郎黏時去農民丈人屋下,摎死忒个猫仔拿轉來。

「可愛そうに。どうか、かんべんしておくれ」
「還衰過,請你原諒𠊎。」

  姉婿はネコを庭に埋めて、毎日手を合わせました。
 大婿郎摎猫仔拿轉去埋在天墀坪,逐日拜佢,

  すると二、三日して、ネコを埋めた所から南天(なんてん→メギ科の常緑低木)の木が生えてきて、見る見る大きくなり、たくさんの実をつけました。
 二、三日後,埋猫該位生出南天樹,一下仔變大,打了當多个果子。

  姉婿はそれを見ると、可愛かったネコの目を思い出して、思わず木をゆさぶってみました。
 大婿郎看著就想到得人惜个猫仔个目珠,試搖該樹仔,

  すると南天がバラバラこぼれて、何と黄金に変わったのです。
 南天跌到滿樹下,毋知仰般樹子嗄變做黃金。

  黄金のおかげで姉婿は大金持ちになり、姉娘は三人の姉妹の中で一番幸せ一生を送ったという事です。
 因為這兜黄金大婿郎變大有錢人,大妹仔在三个妹裡肚生活過到最幸福。

おしまい
煞咧

註 : 乙姫さまは、竜宮城に住むとされているお姫様です。
註:龍宮仙女係戴龍宮城个公主。

自分、もしくは仲間が親切にされると、竜宮城に招待したり、お礼に宝物をくれる気前の良い女性です。
若係對自己抑係同事好、親切佢就會在龍宮招待並拿寶物送人,盡大方个女性。

浦島太郎で有名ですが、昔話にはちょくちょく出てきます。
佢因為浦島太郎(Taro Urashima)出名,輒常出現在古老傳說故事中。

竜宮城(りゅうぐうじょう)は、竜王や竜神などがすむという宮殿の事です。
龍宮城係龍王抑係龍神戴个宮殿。

インドには、ナーガ(竜王)の都が地下にあり、宮殿は天上・地上・地下のどんな宮殿よりも豪華だとされています。
在印度,納迦(龍王)个首都係在地下,聽講宮殿比天上、地上、地下个任何其他宮殿都還較豪華。

日本神話では、海底に海神(わたつみ)の宮があり、娘のトヨタマヒメは竜の姿になって出産します。
在日本神話肚,海底有一座海神廟,妹仔豐田真姬現龍身降細嬰兒。

浦島太郎と竜宮城の乙姫との話のほか、昔話の「竜宮童子」や「竜宮女房」では、淵の底に屋敷があり、善意の者がむくわれる事になっています。
除了浦島太郎摎龍宮城龍宮仙女个故事外,童話“龍宮童子”摎“龍宮使女”故事裡肚,在深淵底下都有大座屋,
善有必善報。

竜宮城は、あの世(死者の国)にあり、死者の世界だとも言われています。
龍宮城堡係該隻世界(死者个國家),又做得講往生者个世界。

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