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 10月22日の日本の昔話
 
  
 もの言うカメ
  むかしむかし、あるところに、お金持ちのお兄さんと、貧乏な弟がいました。
 ある日、弟が山へしばかりに行くと、カメが出てきて言いました。
 「お前は貧乏だが、心優しい正直者だ。金をもうけをさせてやるから、おいらを町へ連れて行け。おいらが歌を歌えば、お前はすぐに大金持ちだ」
 そこで弟は、カメを連れて町へ行きました。
 
 弟は人通りの多い町かどに立つと、大声で言いました。
 「さあさあ、めずしいカメだよ。なんと、歌を歌うカメだよ」
 「なに、歌を歌うカメだって!」
 弟のまわりに、人々がみるみる集まってきました。
 するとカメが、きれいな声で歌を歌い出したのです。
 ♪この男は、親孝行。
 ♪だから、おいらは歌うのさ。
 ♪この男は、働き者。
 ♪だから、おいらは歌うのさ。
 ♪この男は、正直者。
 ♪だから、おいらは歌うのさ。
 それを聞いて、みんなは感心しました。
 「ほう、こりゃあ、ふしぎなカメだ」
 「それに見事。なんて良い声なんだ」
 喜んだみんなは、弟にたくさんのお金をくれました。
 そんな事を何度も繰り返しているうちに、弟は大金持ちになって立派な家をたてました。
 
 これを見た兄は、
 「お前がお金持ちになるなんて、なまいきだ!」
 と、弟からカメを取り上げると、町へ出かけました。
 「さあさあ、よっといで、見といで、聞いといで。めずらしいカメだよ。歌を歌うカメだよ」
 人々がたくさん集まってきましたが、カメはいっこうに歌を歌おうとはしません。
 「おい、どうした! カメよ、はやく歌え!」
 「・・・・・・」
 「こら! 歌うんだ!」
 「・・・・・・」
 カメが歌わないので、見物人たちは怒り出しました。
 「このうそつきめ!」
 「ふてえやつだ」
 兄は見物人から、ひどい目にあいました。
 「ちくしょう、お前のせいだ! こうしてくれる!」
 怒った兄は、カメを叩き殺してしまいました。
 
 「かわいそうに」
 カメが殺された事を知った弟は、泣きながら死んだカメを家のうら庭に埋めました。
 そしてその上に、一本の木を植えました。
 
 次の朝、外へ出た弟はびっくりです。
 きのう、植えたばかりの木が大きくなって、天まで届いているではありませんか。
 そしてもっとおどろいた事に、その木の上から、カメが何匹も何匹もならんでおりてくるのです。
 おまけにそのカメたちは、みんな口に小判をくわえているのです。
 おかげで弟は、ますます大金持ちになりました。
 
 これを見た兄は、
 「お前が、おれよりもお金持ちになるなんて、なまいきだ!」
 と、カメのお墓の木を引き抜いて、自分の家の庭に植えました。
 すると木はグングンのびて、天まで届きました。
 「こりゃあ、ありがたい。弟の時よりも、大きな木になったぞ。これなら大きなカメが、大判をくわえて来るにちがいない」
 兄はニヤニヤしながら、木の上を見上げていました。
 「・・・きた、きたきた!」
 やがて、カメが木をつたっておりてきました。
 けれどどのカメも、お金なんかくわえていません。
 それどころかカメたちは口にゴミをくわえて、兄の庭にすてていくのです。
 「この、ろくでなしのカメどもめ、はやく金を持ってこい!」
 兄は、カンカンになって怒りました。
 そして、
 「もういい。わしが自分で取りに行く!」
 と、兄は木をドンドンと登っていきましたが、途中で手がすべってしまい、そのまま地面に落ちて大けがをしたのです。
 おしまい   
 
 
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