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10月29日の日本の昔話
カッパの妙薬(みょうやく)
むかしむかし、ある山里の村で、子どもたちが大勢集まって相撲をしていました。
ところが子どもたちの中に、一人だけ見なれない子どもがいます。
この子は背の低くて、ひしゃげたような顔をした、とても変わった子どもでしたが、相撲がとても強いのです。
二人でかかっても、三人でかかっても、五人でかかっても勝てません。
「何という、強い奴じゃ」
「まるで、本物の相撲取りの様じゃ」
「こんな時に、五作がおったらな」
みんながくやしがっていると、うわさの五作がやってきました。
五作は、去年も今年も、鎮守(ちんじゅ)さまの子ども相撲で優勝しています。
相撲なら、大人にだって負けません。
「さあ、この五作と勝負だ!」
「よーし。のこった!」
見なれない子どもと五作が、がっちりと組みました。
二人は、しばらくもみあっていましたが、五作が相手を土俵ぎわまで攻め寄せると、
「やっ!」
と、五作のひと声で、見なれない子どもは土俵の外へ投げ出されました。
負けた子どもは、ゆっくりと起き上がると五作に言いました。
「五作よ。お前、仏さまにそなえたまま食ったな」
「ああ、食ったぞ」
「そうか。では明日、仏さまのまま食わずに来い。そうすりゃ、きっと、おれが勝ってみせる」
「よし、わかった。・・・しかし、お前は、どこの者じゃ?」
するとその子どもは、つぶやくように、
「おれは、人間ではない。四方川(よもがわ)に住んでいる者じゃ」
と、言って、そのまま姿を消してしまいました。
(変な奴だな)
さて、五作は家に帰ると、お父さんに今までの事を全部話しました。
するとお父さんは、何か思いあたる事でもあったのか、
「ほう。そんな子がおったのか。なら、明日は仏さまのままを食わんと行け。その代わり」
と、五作の耳に、何やらささやきました。
次の日、約束通り、五作は相撲場にやってきました。
すると、昨日の子どもは、もう来ていました。
そしてどこかで話を聞いたのか、大勢の子どもたちや若者たちが集まっています。
昨日の子どもは、五作に小さい声で聞きました。
「お前、確かに、仏さまのままを、食ってこなかったか?」
「約束だ、食ってない」
それを聞くと、相手の子どもは安心してにっこり笑いました。
「なら、今日はおらの勝ちだ」
そして行司(ぎょうじ)が軍配(ぐんばい)をひくと、いきなり五作が相手の首にしがみついて、相手の頭をゆすぶりました。
すると何やら、ピチャピチャと冷たい物が五作の顔にかかります。
そして相手が、よろけたところを、
「えいっ!」
と、両手で突き放しました。
突き放された相手は尻もちをついて、そのまま倒れてしまいました。
その時、見ていた子どもたちが叫びました。
「あれは、カッパじゃ!」
「やっちまえ!」
見物の大人も子どもも、その子どもを殴ったり蹴ったりするので、五作が止めようとしましたが、みんなは止めてくれません。
そして、若者たちの一人が、
「この野郎。カッパ汁にしてやるわ」
と、太い棒を振り上げた時、
「おーい。待ってくれえー」
と、五作のお父さんが、カッパと若者の間に飛び込んで来ました。
そしてお父さんはみんなをなだめると、財布から、なけなしのお金を取り出して、カッパを買い取ったのです。
そして、五作と二人して四方川へ連れて行くと、そこにカッパを逃がしてやりました。
すると、その晩のです。
五作の家に、年寄りのカッパがたずねてきました。
「今日は、かわいい孫の命をお助けくださって、ありがとうございます。そのお礼に、カッパの妙薬をお教えいたします」
と、年寄りのカッパは、誰も知らない薬の作り方を教えてくれたのです。
五作たちが、その薬を作って試してみると、それは打ち身やねんざに、びっくりするほど良く効く薬でした。
そこで、たくさんの人が五作の家へ薬を買いに来るようになり、五作の家はとてもお金持ちになったということです。
おしまい
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