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7月26日の日本民話
ろくろ首を退治した坊さん
山梨県の民話 → 山梨県情報
むかしむかし、回竜(かいりゅう)という旅のお坊さんがいました。
たまたま甲斐の国(かいのくに→山梨県)へ来たとき、山道の途中で日が暮れてしまいました。
「仕方がない。今夜はここで、野宿するか」
回竜は元は名のある侍で、怖い物知らずです。
ゴロリと道ばたの草の上に寝ころぶと、そのまますぐにいびきをかきはじめました。
さて、どのくらい眠ったでしょう。
「もしもし。もしもし」
と、呼ぶ声に目を覚ますと、一人の木こりが立っていました。
「お坊さま、こんなところで寝ていてはいけませんよ。この山には人を食う恐ろしい化け物がいて、何人もの旅人がおそわれました。よかったら、わたしたちの小屋へ来ませんか?」
「それはそれは、ご親切に」
回竜が木こりの後をついていくと、山の中に一軒のそまつな家がたっていました。
家の中には案内してくれた男のほかに、三人の男と一人の女がいました。
貧しい身なりをしているのに、どこか礼儀正しくて、とても木こりとは思えません。
そこで回竜は、思い切ってたずねてみました。
「みなさんはもしかして、都の人ではありませんか?」
すると、一番年上の男が言いました。
「はい。おっしゃる通り、元は都の侍でした。お恥ずかしい事ですが、わけあって人を殺してしまい、家来とともにこうして山の中に暮らしながら、自分のおかした罪を反省しているしだいです」
「それは、よくぞ話してくれました。そういうお心なら亡くなった方も、きっとあなたたちを許してくださるでしょう。わたしもお経をあげて、亡くなった方のめいふくを祈りましょう」
そう言って回竜は夕食をいただいたあと、夜遅くまでお経をよんでいました。
もうすっかり夜もふけて、隣の部屋からは物音一つ聞こえてきません。
「さて、そろそろわたしも眠るとするか」
回竜は立ちあがって、戸の破れからなにげなく隣の部屋をのぞきました。
「うん? ・・・これは!」
回竜は、思わず息を飲み込みました。
なんと布団の中には、首のない体が五つならんでいるではありませんか。
「さては、人食いお化けにやられたか。お気の毒に」
回竜は恐ろしさも忘れて、部屋に飛び込みました。
ところがどこにも血のあとがなく、どの体も動かされた様子がありません。
「おかしいぞ?」
しばらく考えこんでいた回竜は、ふと、ろくろ首の話を思い出しました。
首の伸びるろくろ首は、体から首を離して遠くへ散歩に行くといいます。
「さては、あの五人がろくろ首であったか。よし、もう二度と首が戻れないように、こいつらの体をかくしてやろう」
回竜は床板をはがすと首のない体を次々と下へ投げ込み、元のように床板をはめて外へ出ました。
外には生暖かい風が吹いていて、その風に乗って人の話し声が聞こえてきます。
回竜がその話し声の方に近づいていくと、五つの首が、あっちへゆらゆら、こっちへゆらゆら飛びまわりながら話していました。
「あの坊主め、よく太っていて、なかなかうまそうじゃ」
回竜を案内してきた、木こりのろくろ首が言いました。
「しかし、いつまでもお経を読まれては、近よる事も出来ん。だが、もうだいぶ夜もふけた。今ごろは、すっかり眠り込んでいるはずだ。誰か様子を見てこい」
一番年上のろくろ首が、言いました。
すると女のろくろ首がフワフワと飛んでいったかと思うと、すぐに戻ってきました。
「大変です! 坊主の姿が見えません! それにわたしたちの体が、どこにも見当たらないのです!」
「なんだと!」
一番年上のろくろ首は、みるみる恐ろしい顔になりました。
髪の毛をさかだてて、歯をむきながら目をつりあげる姿は、さすがの回竜もぞっとするほどです。
「体がなくては、死んでしまうぞ。こうなったら、なんとしても坊主を探し出し、八つ裂きにしてくれるわ!」
五つのろくろ首はものすごい顔で火の玉のように飛びかい、回竜を探し始めました。
回竜は、じっと木の後ろに隠れていましたが、ついに五つのろくろ首は回竜の姿を見つけ出しました。
「よくも、わしらの正体を見破ったな!」
五つのろくろ首は、一度に回竜めがけて飛びかかってきます。
しかし回竜は、近くの木をすごい力で引き抜くと、
「ふん! むかし取った杵柄(きねづか)! きさまら何ぞに、負けんぞ!」
と、いきなり一番年上のろくろ首を、たたき落としました。
「ぎゃーーーっ!」
ろくろ首は叫び声をあげて、頭から血を流しました。
「さあ、かかってこい!」
回竜は木をブンブンと振り回して、ろくろ首を次つぎとたたきのめしていきました。
回竜にやっつけられた五つのろくろ首はフラフラ飛びながら、暗闇の中に消えていきました。
回竜が山の家に戻ってみると、血だらけになった五つのろくろ首が白い目をむいて転がっています。
「さても、恐ろしいめにあったものだ。しかしろくろ首とはいえ、元は人間のはず。成仏せいよ」
回竜は五つのろくろ首に手を合わせると、夜明けの山道をゆっくりとくだっていきました。
おしまい
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