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7月30日の日本民話
吹雪と女幽霊
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むかしむかしのある寒い冬の夜ふけ、村はずれにある久左衛門(きゅうざえもん)というお百姓の家の戸を、トントン、トントンとたたく者がいました。
ふとんにくるまって眠っていた久左衛門は、目を覚まして、
(誰だ? こんな夜ふけに)
と、起きあがると、
「どなたですかな?」
と、戸口へ声をかけました。
すると戸の向こうから、若い女の声が聞こえてきました。
「夜分に、すみません。実はこの吹雪で、先へ進めなくなりました。どうか、しばらく休ませてください」
久左衛門は気の毒に思って、戸を少し開けました。
するとその時、
「ご親切に、ありがとうございます」
と、言う声が、背中の方から聞こえてきました。
久左衛門はびっくりして、後ろを振り向きました。
「お前さん、いつ、家の中に入ったんだ?」
まっ白な着物を着て肩の下まで長い黒髪をたらした若い女は、顔色も白くて雪の精のようです。
「わたしは隣村へ行く途中なのですが、この吹雪では前へ進めません。風がおさまれば、すぐに出ていきます。どうかそれまで、ここで休ませてください」
女の人は立ったまま、静かに言いました。
その女の人の顔と声に、久左衛門は一年前におこった隣村の大雪の事故を思い出しました。
「あっ、あんた、もしかして隣村の? おっ、おらは幽霊などに、うらまれる覚えはないぞ!」
久左衛門が怒ったように言うと、女の人は、
「わたしの事を、聞いたことがあるようですね」
と、言って、静かに話し出しました。
「わたしは、隣村の弥左衛門(やざえもん)の娘のお安(やす)です。
一人娘なので、年を取った父は三年前、伊三郎(いさぶろう)という婿さんを家にむかえて、わたしと夫婦になりました。
ところが去年の冬、大雪に埋まってわたしが死ぬと伊三郎は病気の父を捨てて、実家へ帰ってしまったのです。
明日は、わたしの命日です。
伊三郎のところへ行って、うらみを言おうと思っているのです」
しばらくすると吹雪がおさまってきたのか、あたりが静かになってきました。
するとギギギィッと戸が開く音がして、気がつくと若い女の姿は消えていました。
夜が明けるのを待って久左衛門はお安の家へ出かけていくと、なんと婿の伊三郎がお安の父親の世話をしているではありませんか。
伊三郎にたずねると、お安の幽霊は久左衛門の家を出たあと、伊三郎の枕元に現れたのでした。
恐ろしくなった伊三郎は、夜明け前にお安の家へ戻ってきたというのです。
すっかり心を入れかえた伊三郎は、一生懸命お安の父親の看病をして、その父親が亡くなると頭をまるめてお坊さんになり、全国を巡り歩く旅に出たという事です。
おしまい
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