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7月16日の日本民話
逆立ち幽霊
沖縄県の民話 → 沖縄県情報
むかしむかし、那覇(なは)の町に『みえ橋』という橋があって、その橋のたもとに一軒のアメ屋がありました。
ある夏の夕ぐれ、その日は朝からしとしとと雨が降り続いていました。
「ああ、こんな日にアメを買いに来る人はいないだろう。少し早いが、店じまいをしよう」
アメ屋のおじいさんは、ひさしぶりに早く店をしめました。
そして一人で、のんびりとお茶を飲んでいると、
トントン、トントン
と、雨戸が鳴りました。
「おや、風がひどくなってきたかな?」
おじいさんは、そう思いましたが、
トントン、トントン。
今度ははっきりと、戸をたたく音がしました。
「どなたじゃな? もう店じまいをしたから、また明日にしてくださらんか」
トントン、トントン。
何度も何度も戸をたたくので、おじいさんは仕方なく戸口を開けました。
すると外には白い着物を着た女の人が、雨にぐっしょりとぬれて立っていました。
「すみません。アメを少し分けてくださいな」
女の人は、細い声で言いました。
「これはこれは。せっかく買いに来てくれたのに、すぐに出なくてごめんよ。ささ、どれでも持って行ってください」
おじいさんは、アメを紙につつんで差し出しました。
「よかった。これで家の子も、喜びます。ありがとうございました」
女の人はニッコリ笑うと、お金をおじいさんに渡しました。
「では、気をつけてお帰りよ」
「はい」
女の人は深くおじぎをすると、雨の中へ消えて行きました。
それからも時々、女の人はアメを買いに来るようになりました。
でも、四回、五回と続くうちに、おじいさんはある事に気がつきました。
それは女の人がアメを買いに来るのは決まって夕暮れ時で、それも人目をさけてやって来るのです。
「もしかして」
おじいさんは大急ぎで、お金を入れたはこを持って来ました。
そしてお金を調べていたおじいさんは、
「わーっ!」
と、腰を抜かしてしまいました。
なんとお金の中から、半分焼けた紙銭(かみぜに)が出てきたのです。
紙銭というのは、死んだ人が死の旅の途中で使うようにと、紙でつくったお金の事です。
おじいさんが紙銭を持って、ブルブルと震えていると、
トントン、トントン
と、雨戸をたたく音がしました。
「来たな」
おじいさんは、そーっと戸を開けました。
するとやはり、外には白い着物の女の人が立っていました。
「おじいさん、アメをくださいな」
女の人は、細い声で言いました。
「はい、ではこれを」
おじいさんが震えながらアメを差し出すと、女の人はアメの包みを大切そうに胸にかかえて帰って行きました。
「怖いが、あとをつけてみるか」
おじいさんは女の人のあとを、つけて行くことにしました。
女の人は山道を進んでいき、山の中にあるお墓にたどり着きました。
「やはり、あの女は幽霊だな」
おじいさんが息を殺して見ていると、女の人はチラリとおじいさんの方を振り向いて、そのままお墓の中に消えていきました。
おじいさんが、そのお墓の前まで行ってみると、
「オギャー! オギャー!」
と、お墓の中から、赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのです。
「うわーっ!」
びっくりしたおじいさんはすぐに町へ帰ると、見てきたことをみんなに知らせました。
そしてお墓の持ち主とお坊さんを連れて、お墓の前に集まりました。
さっそくお墓の石を取りのぞき、中をのぞいてみてびっくり。
なんと赤ん坊が、アメをしゃぶりながら死んだお母さんのそばにいるのです。
お母さんの顔は、たしかにアメを買いに来た女の人でした。
お墓の持ち主の話では、この女の人は赤ん坊を生む前に病気で死んだとのことです。
きっと葬式が終わってお墓の中へ入れられたあとで、この赤ん坊を生んだのでしょう。
お坊さんは念仏をとなえると、女の人の足をひもでゆわえました。
「もう、アメを買いに行かなくてもいいんだよ。
赤ん坊は、我々が育てるからね。
お前さんの両足をしばっておくから、もう出て来てはいけないよ」
そしてみんなも、女の人の成仏を手を合わせて祈りました。
さて、それからしばらくたった、ある夕暮れ時。
アメ屋のおじいさんが、店をしめて休んでいると。
トントン、トントン。
トントン、トントン、
と、戸をたたく音がしました。
「すみません、アメをくださいな」
「はいはい、ちょっとお待ちを」
おじいさんが戸を開けて見ると、あの白い着物を着た女の人が、逆立ちをして立っていました。
お坊さんに両足をひもでしばられたので、逆立ちのままやってきたのです。
「ひぇーーっ!」
おじいさんは腰を抜かして、言葉が出ません。
「すみません、アメをくださいな」
逆立ちの女の人がもう一度言ったので、おじいさんは何とかアメを差し出すと、女の人はアメの包みを大切そうに胸に抱えて、やみの中へ消えて行きました。
アメ屋のおじいさんの知らせを受けて、お墓の持ち主とお坊さんはそれから何度も女の人の供養をしましたが、それから何年もの間、女の人はおじいさんの店にアメを買いにきたそうです。
おしまい
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