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 11月16日の日本の昔話
 
  
 海坊主にあった船乗り
 
  むかしむかし、徳蔵(とくぞう)という船乗りがいました。船乗りの名人として知られ、徳蔵のあやつる船はどんな嵐も乗り切り、これまで一度として遭難(そうなん)した事はありません。
 だから船主たちは大事な荷物を運ぶ時、かならず徳蔵の船を選ぶほどです。
 しかしそんな徳蔵にも、肝(きも)をひやすような出来事がありました。
 
 ある日、徳蔵は荷物をおろしたあと、のんびりと船をこいでいました。
 空は晴れ、おだやかな波の上で海鳥たちがたわむれています。
 「なんて、静かな海だ」
 すっかりいい気分になった徳蔵は、歌を口ずさんでいました。
 はるかむこうに、島影が見えた時です。
 ふいに、生あたたかい風が吹いてきて、波が高くなりました。
 沖の方をふり返ると、さっきまで晴れていた空に黒い雲がわき出し、みるみる広がっていきます。
 「おかしいなあ?」
 徳蔵は、首をかしげました。
 これまで長年の経験で、こんな日は絶対に嵐などやって来ません。
 それでもあたりは暗くなり、船の上まで黒雲がたれてきました。
 波はいよいよ高くなり、船が大きくゆれます。
 やがて雨が降りはじめると、はげしい嵐になりました。
 (こういう時は波にさからわず、じっとしている事だ)
 徳蔵は船をこぐのをやめると、ろ(→船をこぐための棒)を船に引きあげたまま、船のバランスをとるために船底にうずくまっていました。
 船はまるで、木の葉のようにゆれます。
 と、その時、目の前の海から黒い物が浮きあがり、あっという間に高さ一丈(→約三メートル)ほどの大入道になりました。
 「ば、化け物!」
 さすがの徳蔵も、ビックリです。
 けれど腕ききの船乗りだけの事はあり、あわてずにその化け物をにらみつけました。
 化け物の両眼が、ランランと光っています。
 そして、うなるような声で言いました。
 「どうじゃ? わしの姿は、恐ろしかろう!」
 すると徳蔵も、負けじと言い返します。
 「何が、恐ろしいもんか。世の中には、お前より恐ろしい物はいくらでもいる。とっとと消えうせないと、このろでたたき殺すぞ!」
 徳蔵のすごいけんまくに、逆に化け物があわてました。
 「チビのくせに、おそろしい男だ」
 化け物はそのままスーッと海へ沈むと、それっきり姿を見せなくなりました。
 と、同時に嵐がやみ、ふたたび空に日がもどります。
 家にもどって、この事を近所の物知り老人に話したら、それは海坊主という妖怪(ようかい)で、体がうるしのように黒く、嵐を起こして船を沈めるというのです。
 (なるほど、それにしても、よく船を沈められずにすんだものよ)
 この話しはすぐに広まり、海坊主を追い払った船乗りとして、徳蔵への仕事の依頼(いらい)はますますふえたということです。
 おしまい   
 
 
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